照明・映像・音響のトータル演出から
思い描く「街全体の賑わい」までの筋道。
2025年10月に東京・青海(お台場エリア)に開業した新アリーナ「TOYOTA ARENA TOKYO」。パナソニック(株)エレクトリックワークス社(以下、パナソニック)では、同施設へ照明・映像・音響までをワンストップで設計・納入した。これらの特徴から今後の展望までをソリューションエンジニアリング本部 部長の新保吉博氏、ライティング事業部エンジニアリングセンターの山田祐介氏、志賀晃一氏に訊いた。
▲ 3層構造のセンターハングビジョンは、上部リング、メインビジョン、下部リング外側・内側のすべてが高精細仕様(3.9mmピッチ)。メインビジョンを長手方向に斜め配置するなど、観客席からの視認性を重視した設計が採用されている。
スポーツ領域の「総合演出ソリューション」を目指して
パナソニックでは、長い年月をかけて築き上げた照明設備への技術やノウハウをベースに、これまでも全国各地の競技場やアリーナ施設に照明を納入してきた。だが近年、同社がめざす姿はそれにとどまらない。新保氏は『当社の強みは、照明だけでなく映像・音響・送出装置まで、演出に必要な要素をトータルで提案できる点にある』と語る。同氏によると、近年は部門間の連携が一段と強化され、『トータルでコーディネートできる体制こそが、他社との差別化につながる』と予見する。実際に「TOYOTA ARENA TOKYO」においても、『総合演出ソリューションを実現できる点が特に評価された』と振り返る。
いざ完成した「TOYOTA ARENA TOKYO」には、同社から「競技用照明」「映像装置」「音響設備」「総合演出システム」「サイネージシステム」などを納入。そのそれぞれが用途や競技特性を踏まえた最新鋭の仕様を持ち、総合演出ソリューションの体現にふさわしい形となった。

▲ リボンビジョンは2層構造で、上層は高さ2mのサイズで実寸の自動車を映し出すことも可能。長さは250mを超える。下層は高さ1m・長さ約220mで、JR山手線1編成に匹敵する規模だ。両層を合わせた横幅は約476m、面積にして734㎡に及ぶ。
国際大会の基準へ準拠すると共に、観戦体験も向上
詳細について辿ると、志賀氏は競技用照明の導入について、『「TOYOTA ARENA TOKYO」の基本設計段階から、照明について「国際バスケットボール連盟(以下、FIBA)の最新基準に準拠したい」という意向を聞いていた。当社ではそれを踏まえて初期の段階から照明設計に協力させていただき、結果として採択に至った』と振り返る。また山田氏は『厳密にはBリーグにはBリーグの基準があるが、FIBAに対応することで国際大会にも対応でき、幅広い用途が期待できる』と述べ、そのための機材として「グラウンドビームER」を選定したと明かす。
「グラウンドビームER」は国内アリーナでは初めて(※)の導入となるLED投光器で、器具光束70,000ルーメン以上を誇る。FIBAと認証契約締結した唯一の照明メーカーとして送り出した最新機材で、山田氏は『商品名の“ER”が“Easy Renewal”から来ているように、従来の光源からのリプレイスにも適している。具体的にはHID投光器と同等以下の重量、受圧面積で、当社従来LED商品と比較しても約20〜30%の大幅軽量化が叶った。今回のように新設するケースにおいても、工事の作業負担を軽減することに繋がったのではないか』と、特徴を説明する。
選手にとってはプレーに、観客にとっては観戦体験の向上に寄与できることも大きなポイントだ。志賀氏は『当社は一社のなかにそれぞれの専門家がいる。調光においても専門部隊がいることで、業界最高水準の照明演出を実現できた。「TOYOTA ARENA TOKYO」でもDMX調光制御技術を採用し、0〜100%までの微細な調光が瞬時かつ個別にできる。これにより多彩なエンターテインメント演出が可能となり、会場の多目的利用に対応できるようになった』と話す。
さらに独自の3Dシミュレーション技術を活用することで、競技者視点での検証を繰り返し、照射角度の最適化を図った。山田氏は『二次元の照度確認だけでは、現場での支障、例えば選手の目線からでは眩しく感じてしまうなどの問題が出てしまう』としたうえで、精度の高いシミュレーション環境の背景として『白熱灯の時代から長年照明に携わってきたバックボーン、研究開発部門の存在も大きく、そこで培われたノウハウがシミュレーションソフトの精度にも生かされている』点を強調した。競技開催に向けては、トヨタアルバルク東京(株)(以下、アルバルク東京)の協力を得て、選手目線での確認や微調整も行ったが、『シミュレーションでは拾いきれない選手目線での気づきがあった際にも、DMX制御で細かな調整が図れた』と振り返る。
これらに加え、近年のアリーナやスタジアムに求められているのがテレビを通したときの見え方である。志賀氏は『コロナ禍もあったことで、東京オリンピックの辺りから現地観戦と並んで“テレビでスポーツを観戦する”というスタイルが支持されている』との動向を示唆。『その点で今後は次世代放送にも対応する必要があり、当社の照明では4K8K放送の色域をカバーした。演色性が高いことで、アルバルク東京様のチームカラーである「赤」もより忠実に再現できるようになった』と胸を張る。
国内アリーナ最大級(※)のLEDビジョンで大迫力の演出に
続いて「TOYOTA ARENA TOKYO」に設置したLEDビジョンについて、新保氏は『アルバルク東京様の思い描く演出が可能となるように、大迫力で臨場感のある映像送出を実現できるLEDビジョンを納入した』と話し、そのうちメインアリーナのセンターハングビジョン(以下、ハングビジョン)と2層からなるリボンビジョンを目玉として紹介した。ハングビジョンは高さ7m、幅11m、奥行き5.6mからなり、これを上方に向かって広がる形状に設計した。いわば逆台形型にすることで、上層にいる観客からも高い視認性を維持することができる。
特徴的なのは、外側に限らず、内側4面にもLEDビジョンが取り付けられている点だ。新保氏はこれについて『コートサイドに近いお客様にとっては、ハングビジョンとの距離が近い分、通常であれば画面が真上に近くなってしまい、情報が見にくい。それを内側にもビジョンを取り付け、情報を表示することで、得点者やファウル数などをどの客席目線でもスムーズに確認できる』と説明する。ハングビジョンの上部リング、メインビジョン、下部リング外側・内側のすべては、3.9mmピッチの高精細仕様で揃えている。
さらに同氏は、『国内アリーナで初めて(※)、上層・下層の2層でのリボンビジョンを常設した点にも是非注目していただきたい』と付け加える。アルバルク東京との議論を重ねて実現したという同ビジョンは、下層部分が高さ1m、長さ約220m。上層については高さ2m、長さ260mにもなり、実寸の自動車を映し出すことが可能な高さに該当する。何より会場を包囲するリボンビジョンが2層に渡り設置されたことで、アリーナ全体を包み込む演出が可能となった。以上のハングビジョン、リボンビジョンを合わせるとメインアリーナ内のビジョンの総面積は1,000㎡を超え、国内アリーナ最大級(※)のスケールを実現することにもなる。
▲ 「アルバルク東京」が勝利した時にしか見られない特別演出。
アリーナに適した音響設備と総合演出システムの導入
照明やLEDビジョンのほかにも、音響については世界のトップアーティストのツアーリングやアリーナなどで選ばれるd&b audiotechnik社のラインアレイスピーカーを採用した。新保氏は『この商品は小さなスピーカーが縦に11個、客席のラインに沿うような形で並んでいる。通常のスピーカーではどうしても音の届き方が客席によって異なってしまうところを、ラインアレイスピーカーの場合は忠実に再現した音を狙った場所へ正確に届けることができる』と説明。「TOYOTA ARENA TOKYO」ではこのスピーカーを8セット、さらに天井部分にディレイスピーカーを28台、アリーナ面に向けて8台(4セット)を設置。アリーナについてはセンタービジョンの下部に取り付けて、コート面に対して拡声できるように工夫した。
パナソニックでは、これらの競技用照明、ハングビジョン、リボンビジョン、音響設備、サイネージなどを取りまとめ、トータライズされた演出を可能にするため、総合演出システム「KAIROS(ケイロス)」も導入した。新保氏は『事前の設定を済ませれば、実稼働段階ではボタンひとつで希望の演出を再生できる。この一括制御によって省人化はもちろん、人的ミスを防ぐことにも繋がる』と話し、『アルバルク東京様と一緒に実現した大迫力の勝利時演出も、この「ケイロス」によって実現した。ぜひ注目していただきたい』と紹介する。
▲ 「TOYOTA ARENA TOKYO」では、競技用照明、センターハングビジョン、リボンビジョン、音響設備、サイネージなどを取りまとめ、トータライズされた演出を可能にするため、総合演出システム「KAIROS」を導入している。
総合演出ソリューションの先に地域の価値創造を見据えて
今後に話を向けると、山田氏は施設自体の稼働率・収益力の向上に触れた。『「TOYOTA ARENA TOKYO」はアルバルク東京様のホームアリーナであるとともに、バスケットボールの試合開催日以外の、他のスポーツや展示会などでの活用も求められている』との事情から、既に約20の照明パターンをプリセット。同氏は『DMX制御によって、約140台の照明を1台ずつ調光できることが功を奏した』と振り返り、準備段階では各パターンの照度などを現場レベルで一つずつ確認したことを打ち明けた。開業後はボタンひとつで切り替えられることで、現場オペレーションの簡易化に貢献している。
もう一つの発展性として、新保氏はアリーナ周辺を含む街全体の賑わいを創出する取り組みにも思いを寄せる。『現段階では「TOYOTA ARENA TOKYO」だけだが、今後は晴海地区、あるいはお台場全体の街づくりというところまで、当社にお任せいただけるように働きかけていきたい』と意気込むと、『スポーツ施設の内部はもちろん、アリーナやスタジアム外構、あるいは隣接する公共空間にも演出を施して賑わいを持たせることは、最終的に地域のバリューアップに繋がる』との可能性を示した。同氏は『今後の案件でもそうしたビジョンを意識して進めていきたい』と語り、総合演出ソリューションの価値証明に向け奔走する構えを見せている。
〈※)国内のプロバスケットボールを興行として行うアリーナとして(2025年6月時点、パナソニック調べ)。
【問い合わせ】
パナソニック(株)エレクトリックワークス社
東京都港区東新橋一丁目5番1号
Tel.03-6218-1131(代表)
https://panasonic.co.jp/ew/







