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〈2021.8.3〉ポップカルチャー発信地に佇む神社—武蔵野坐令和神社

※本記事は、月刊サイン&ディスプレイ2021年7月号に掲載された記事です。

 

 東京・池袋駅から電車に揺られて約30分。埼玉・東所沢駅で下車し、駅前大通りを歩くと、足元には「機動戦士ガンダム」や「スレイヤーズ」、「ケロロ軍曹」など、人気キャラクターが描かれたLEDで発光するマンホールが。ひとつひとつのイラストに心を躍らせながら10分ほど歩くと、地元の人たちの憩いの場所、東所沢公園に到着する。

 

 2020年8月より同園内・武蔵野樹林パークで常設展示されているチームラボ(株)の「どんぐりの森の呼応する生命」を横目にさらに進むと、ところざわサクラタウンが目の前に現れる。

 

 

 

▲ 「武蔵野坐令和神社」の参道に、KADOKAWAアニメの作品タイトルが並ぶ。

 

日本最大級のポップカルチャー発信拠点

 

 (株)KADOKAWAと(公財)角川文化振興財団が運営するところざわサクラタウンは、2020年11月6日にグランドオープン。みどり豊かな所沢の地から、日本のポップカルチャーを世界に向けて発信するプロジェクト「COOL JAPAN FOREST構想」の拠点としてつくられた複合施設である。

 

 施設内には、「角川武蔵野ミュージアム」、「EJアニメホテル」、「武蔵野坐令和神社」、さらに飲食店や物販店、演劇や映画を催すことができるイベントホールが点在しており、KADOKAWAの新オフィス、書籍製造・物流工場も備える。

 

 ところざわサクラタウン敷地内で圧倒的な存在感を放つ角川武蔵野ミュージアムの設計は、新国立競技場や根津美術館など数多くの建築を手がけている隈 研吾氏が担当。なんと同美術館の外壁には、約2万枚もの花崗岩の石板が用いられているという。その花崗岩66枚を三角形にして組み合わせ、複雑な形状をつくることで、見る角度や外光の当たり具合によって建物はさまざまな表情を見せる。

 

 ダイナミックな印象の角川武蔵野ミュージアムのはす向かいには、武蔵野坐令和神社が凛と佇む。同神社もまた、隈氏がデザイン監修を担当。設計は社寺建築に強みを持つ(有)種村強建築設計、施工は白石建設(株)が手がけた。

 

 今回、武蔵野坐令和神社で宮司を務める小川泰弘氏と、角川武蔵野ミュージアムの広報を務める齋藤 真由美氏に、拝殿内をご案内いただいた。

 

 

 

▲ 圧倒的な存在感を放つ、角川武蔵野ミュージアム。 《武蔵野皮トンビ》 鴻池朋子 2021 © Tomoko Konoike

 

拝殿の天井を舞う、鳳凰

 

 

 

天井画 鳳凰 使用マシン:UVインクジェットプリンター 印刷:UVインクによる大判印刷 仕様メディア:3M™️ ダイノック™️ シート「VM1692」 印刷解像度:原寸144dpi

  

 『武蔵野坐令和神社は、国文学者の中西 進先生に命名いただきました。神社名の由来は、元号“令和”の典拠となった万葉集の舞台でもある武蔵野の地に神社が鎮座していることにあります』と小川氏は話す。

 

 同神社は、主祭神に伊勢の神・天照大御神(あまてらすおおみかみ)を、相殿神に出雲の神・素戔嗚命(すさのをのみこと)を迎え、二柱の御祭神を“言霊大神(ことだまのおおかみ)”と総称している。

 

 言霊大神は、文芸・芸術・芸能などのコンテンツの表現に現れる神の御稜威(みいつ)を指す。そのことから、武蔵野坐令和神社には作家や編集者、芸能関係者が祈りを捧げに訪れるという。

 

 さらに同神社は、(一社)アニメツーリズム協会の定める『訪れてみたい日本のアニメ聖地88』の一番札所に選定されていることから、多くのアニメファンも引き寄せている。

 

 KADOKAWAアニメの作品タイトルがズラリと並ぶ参道ののぼり旗を抜けると、日本古来の神社建築の様式・神明造(しんめいづくり)と流造(ながれづくり)が用いられた本殿が。伝統的な神社建築の様式を踏襲しながらも、鳥居や千木(ちぎ)には金属が、ファサードには大ガラスが用いられており、まさに新たな時代である令和の神社を表しているようだ。

 

 

 

▲ 目新しいメタルメッシュの鳥居の根元には植物が。将来的には、鳥居が植物で覆われる。巫女が鳥居の植物に水をやる姿は、武蔵野坐令和神社の公式Twitterで話題になった。

 

 拝殿に入ると、天井を舞う鳳凰の姿に目を奪われる。この巨大な天井画は、(株)タツノコプロ作品のキャラクターデザインやゲーム「ファイナルファンタジー」のビジュアルデザインで知られるアーティスト・天野喜孝氏が製作。施工は、アートならではの質感の再現を得意とする(株)リコーのアートブランド・StareReap(プリンティングプロジェクトマネジメント)と、(株)トヨテック(スキャニング)、(株)f.ディライト(印刷と施工)が担当した。

 

 小川氏は『天井画製作の話があがった当初は、絵を直接天井に描くという案もありましたが、製作期間や将来的な修復の必要性などを鑑みて、天野先生の原画を元にした天井画を製作することにしました』と振り返る。

 

 天野氏による原画は、板に金箔があしらわれ、その上からKADOKAWAのシンボルである鳳凰が描かれた非常に繊細な仕上がり。その繊細さをいかに忠実に再現するかが、大きな課題だったという。

 

 壁画の印刷と施工を手がけたf.ディライトの取締役専務である伏木 栄二郎氏は『三分割にて作製された原画を高品位に再現するベストな工法として判断し、原画を部分ごとに切り抜いて新たに下地を作成し、その上に鳳凰の絵を合成させています。限られた期間内に完成させるべく、スタッフ総出で切り抜きと編集の作業をしました。天野先生には、数回仕上がりを確認していただき、ご満足いただくことができました』と製作当時を振り返る。

 

 伏木氏は、かつては看板製作を手がけてきたが、その頃より培ってきたインクジェットへの知識と技術を活かし、現在では空間演出にまつわる印刷出力事業を行っている。

 

 一方、天井画製作の様子について小川氏は『昨年の5月頃に原画をデータ化し、6月末の竣工に向けて製作をしました。壁画に対する照明の当て方を調整したかったので、竣工までには必ず作品を完成させたかったのです。

 

 短い製作期間のなか、繊細な作品を忠実に再現するために、施工関係者の皆さまに何度もやり直していただきながら完成に至りました』と話した。

 

 

 

▲ 繊細な筆づかいがリアルに表現されており、まるで天井に直接鳳凰が描かれたかのようだ。

 

 

 また、拝殿の魅力は壁画だけではない。厳かな雰囲気を放つ神殿は茅葺き屋根となっており、柱や扉には樹齢100年超えの檜が用いられている。厳選された貴重な素材が、神を祀っているのだ。神殿の側に鎮座する狛犬は、武蔵国(むさしのくに)で信仰されていたニホンオオカミをモチーフにしたもので、彫刻家・土屋仁応氏が製作したという。

 

 

 

▲ 神殿を正面から見る。ニホンオオカミをモチーフに した狛犬が神殿を守っている。

 

 アルカイックとモダンが融合した、まさに現代の神社、武蔵野坐令和神社。祭りや祈祷の際には拝殿内に入ることができるそうなので、ぜひこの特別な空間を体験してみてほしい。

 

 ところざわサクラタウンは、同神社だけでなく角川武蔵野ミュージアムやEJアニメホテルなど、KADOKAWAならではの要素が詰まった場所。自然に囲まれた豊かな敷地で、穏やかな一日を過ごすことができるだろう。

 

 

 

▲︎ 夜の武蔵野坐令和神社。照明が拝殿内を照らし、昼間とは違った表情をつくる。 提供:(株)f.ディライト

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