映像演出は空間に溶け込む照明の一部、
“エクスペリエンスデザイン”で来店者をおもてなし。
NTP名古屋トヨペット(株)は2023年8月30日、トヨタ自動車(株)が展開する高級車ブランド「レクサス」の新店舗として「レクサス山王」(名古屋市中川区)を開業した。店内2階にあるレクサス山王オーナー専用ラウンジ「クラブレクサス」には、空間に溶け込むように映像と照明による演出が施されている。
本当の美しさは目を閉じた時に完成する
クラブレクサスのエントランスには、今回設計を担当した(株)丹下都市建築設計のインテリアデザインを踏襲。“縁”をコンセプトとした、まるで屋外にいるような“外路地”に見立てられた空間に足を踏み入れると、手水鉢(ちょうずばち)とガラスアートワーク(※1)越しに「てりむくり」(※2)の壁面が見える。そこに滝が流れているような映像がプロジェクターにより表現されている。
映像制作のコンセプトは、“本当の美しさは目を閉じた時に完成する”。水流をイメージした映像が、てりむくりの壁面や手水鉢などのインテリアデザインに溶け込む。演出企画・デザインを中心にクラブレクサスの空間プロデュースを行った(株)モデュレックスの瀧川将太氏は、以下のように話す。
『あえて具体的な映像を投影しないことで、お客様それぞれの美しい情景を想像していただき、そこで初めて空間が完成される、そのような見立ての美になる様に制作しました。ある人は滝をイメージされるでしょうし、ある人は川の流れを想像するかもしれません。
また、映像は春夏秋冬で変化します。夏はブルーを入れて清涼感を増し、秋には赤っぽくして紅葉をイメージさせ、冬は雪をイメージできるよう白っぽく、春になったらピンクを入れて桜のイメージに。あくまで“ぽい感じ”で、映像をみられた方それぞれに想像してもらえるような映像表現を心がけました。
私たちは今回、映像作品を作ったのではなく、空間に溶け込むライティングの一部として映像を捉えています。このような演出を当社では“エクスペリエンスデザイン”と呼んでいます。
プロジェクターを採用した瞬間に、“映像を映さなければならない”という固定観念のようなものがありますが、私は必ずしも映像を流す必要はないと思っています。たまたま今回は水が流れているような映像になっていますが、単純に“ブルーのグラデーションが徐々に動いていく”ような、映像ではなくて、ライティングとしてのプロジェクションというのが、インテリアデザインの要素をより強調するのには必要になってくると思います』。
なお、映像により立体感を出すため、てりむくりの壁面の3Dデータをもとに、実際に水を流した時にどの様に映るかを検証し映像制作を行ったという。自然現象であり、偶発的に起こる水の流れだからこそ、飽きのこないずっと見ていられる様な映像になっている。映像コンテンツは、モデュレックスの企画コンセプトをもとに、(株)ルーセントデザインが制作した。
(※1)265個の吹きガラスを天井から吊るしたもの。一つずつ職人が吹いて製作しており、一つとして同じ形状のものはない。
(※2)てりむくりは、神社仏閣などに見られる日本古来の形状。「てり」とは反りのこと、「むくり」とは緩やかな起き上がりのことをいう。表面には銀箔を貼り、それを研磨し少しマットな感じに仕上げている。
主役は映像ではなく、
お客様でありインテリア空間
今回、クラブレクサスのエントランス空間で使用されたプロジェクターは、富士フイルム製の「FP-Z8000」。上下70%・左右35%のレンズシフト機能により、広い範囲で投写映像位置を移動可能なのが特長で、狭いスペースでも設置・投写が可能だ。瀧川氏は『プロジェクターの存在がわかることをインテリアデザイナーは嫌います。また、当社では照明による空間演出で器具を目立たせないよう普段から心がけています。それはプロジェクターでも同じです。FP-Z8000であれば、インテリア空間の邪魔をせず、極力プロジェクターの存在を感じさせずに設置できると思いました。設置位置が限定されているなかで、超短焦点タイプであり、レンズシフト範囲が広いことも採用理由です』と語る。
なお今回、明るい環境でのプロジェクションであることから、FP-Z8000を2台スタックして使用。16,000ルーメン(8,000lm×2)の明るさで投影を行っている。
『先述のとおり、今回の映像演出は映像作品ではなく、エントランス空間のライティングの延長として考えています。真っ暗にするのではなく、ある程度の明るさを保ちながらのエクスペリエンスデザインです。あくまで主役はお客様であり、インテリア空間ですので』と瀧川氏。その存在がまったく気にならないほど空間に溶け込むFP-Z8000と、明るい中でも壁面に光が飛ばないように、グレアコントロールされたモデュレックスの照明器具だからこそ実現できた演出と言えるだろう。
もちろんBGM(春夏秋冬で変化)もオリジナルで作成されており、視覚のみならず、聴覚でも来店者の想像を掻き立てる様にデザインされている。現在は夏の清涼感を際立たせるような涼しげな音楽と、残響を追加したBGMになっている。制作はアーティストの鶴田さくら氏。
【空間演出に関する問い合わせ】
(株)モデュレックス
Tel.03-5768-3131
https://www.modulex.jp
【プロジェクターに関する問い合わせ】
富士フイルムイメージングシステムズ(株)
Tel.03-6417-9759
https://www.fujifilm.com/jp/ja/business/optical-devices/projector
▲ エントランスを抜けた先には、「庵」というラウンジ空間がある。ここにはLEDディスプレイを設置した丸窓があり、エントランスの手水鉢と呼応するようなかたちで、水鏡の手法を用いた映像演出を提供している。映像は春夏秋冬で変化し、さらに朝・昼・夕・夜の4つのパターンを各7分半でループさせている。使用したLEDディスプレイは1.2mmピッチのCOBタイプ。