S&Dセレクション

〈2022.11.10〉さらに加速するDTFムーブメント

オンデマンドプリント業界を席巻するDTF、
リーディングカンパニーの戦略。

オンデマンドグッズソリューションを提供する(株)イメージ・マジックは、インクジェット印刷と転写用バインダー塗布を同時に行うDTF(Direct To Film)プリンターに新型を導入。自社でのグッズ製作において実用化するのはもちろん、同業などへのプリンター販売も行っている。狙いや展望について、同社の情報コミュニケーション本部 ソリューション事業部 部門長である新町光宏氏に訊いた。

▲ イメージ・マジックのIPC(東京都板橋区)で稼働中の「Trans Jet DTTS-600」。

▲ 白インク搭載機で起こりがちなインク詰まりを解消すべく、新たに採用した真空アルミパウチ式のインク。

 

 

 

印刷業界のトレンド“DTF”とは

 

 2022年10月に行われた「オーダーグッズビジネスショー2022」でもひときわ多く目にする格好となった“DTF”。対象データを転写用のシートへ出力後、プリント面にホットメルトパウダー加工を施し、熱処理を経て自動で巻き取りまでを行うことができる。カットしたプリント紙を圧着機でTシャツなどに転写すれば、たちまちオリジナルグッズへ。難しい技術を必要とせず、色彩の再現性も高いことから、オンデマンドグッズ製作を新たな事業の柱に見据える企業も増えているほどだ。

 

 

DTFを取り巻く従来の課題認識

 

 イメージ・マジックではこのDTFにいち早く着目、2021年10月に「Trans Jet DTTS-600」と省スペース型の「Trans Jet mini DTTS-300」を発売した。ただ実のところ、DTF技術が広まり出した当初はインク詰まりが一定数発生し、安定した稼働を不安視する声が広まった。新町氏は『インク詰まりは白インクを搭載するプリンター全般に言える問題』と前置きしながらも、『DTFプリンターはシンプルな構造であるばかりに、白インクが悪さを起こしやすかったのは事実です』と述べた。ただ、それで諦めて済むような技術ではない。この手の機器が安定稼働すれば、作業時間や各種グッズの作成コストは格段に縮まる。イメージ・マジック自体が雑貨やアパレル製品にオリジナルプリントできるECサイト「オリジナルプリント.jp」を運営していることもあり、この課題解決を急務として自社のR&D拠点で日夜改良を行った。

 

 

 

冬を前に独自開発インクで懸念を払拭した

 

 イメージ・マジックが最終的にたどり着いた解決策は、DTFプリンターに最適化させた独自開発インクを用いることだった。『多くのDTFプリンターはインクを補充する際、ボトルから注入口へ直接注ぐ形式を取ります。ですが、このスタイルだとどうしても空気が入ってしまって、それが吐出不良に繋がってしまう。そこで私たちは打開策として、真空アルミパウチから直接インクを補充できる仕様を開発しました』と新町氏は語る。聞けば、アルミパウチも真空充填するための機械も、この開発のために新規で買い揃えている。インク自体においてもプリンターヘッドとの相性を考えて開発を進め、従来品に見られる色や品質の揺らぎも最小限にとどめた。「Trans Jet」が発売されて2年目を迎える冬を前に、低温・乾燥にも強い仕組みづくりに奔走した格好だ。

 さらに、新たに発売した「TransJet DTTS-P302」においてはプリンター機の小型化にも注力した。オンデマンド転写を導入したいと考える企業の中には、限られたオフィススペースしか用意できず、置く場所が足りないことや、そもそも搬入時にエレベーターへ乗り切らないといった課題が出ていたためだ。そこで発売したDTTS-302シリーズは、同社の旧モデルにあたるDTTS-600シリーズに比べ、設置スペースは約2分の1に抑えている。

 従来のモデルから特徴となっていた「リタック」「カス取り」の作業は引き続き必要ない。不慣れな作業者でも簡単に作業を完遂でき、新規参入を試みる事業者にとっても優しい設計となっている。新町氏は『うちはプリンター機のメーカーでもあり、プリント屋さんでもあります。ですから、自ら機械を使ってみて生産性を確認し、改良を重ねた上で世に出すことができるんです』と自社の特徴について強調した。

 そもそも、これだけ業界を賑わせているDTFプリンターも海外からいち早く買い付け、実際に稼働させ顕在化した改善点をフィードバック、実用化に向けて奔走した経緯がある。加えて顧客から注文を受け、オーダー通りにプリント、梱包・出荷するまでのシステム面も、サービスを稼働させる中で突き詰めた。現在はオーダー品ごとにユニークなQRコードを発行、管理する仕組みを構築する他、同業者へのシステム販売も行っている。

 

▲ イメージ・マジックのIPCで稼働中の「TransJet DTTS-P302」。

▲ イメージ・マジック小豆沢工場(東京都板橋区)内にズラりと並ぶ「Trans Jet」シリーズ。

 

 

 

参入障壁を下げ、市場拡大に貢献したい

 

 筆者はふと“自社の技術や仕組みを外に出してしまっては、同業者が追随、自社の旨味が小さくなってしまうのではないか”との懸念を抱いた。だが、新町氏は自社のスタンスについて『私たちはDTFを自分たちのものにしようというよりも、どちらかと言えば参入障壁を下げたい』と話し、『みんなで市場を広げていきたい』と念を押した。

 現に、これまでのようにデザインする人、プリントする人、それを販売する人…と分業していた時代は過ぎ、自身でデザインしたものをTrans Jetで転写シートへ出力、服飾品にプリントしてECサイトで販売、といったことがまさに行われようとしている。こうした事例が広まれば、そこへ新たな付加価値を加えたサービスも誕生するかもしれない。市場が拡大すれば、再びイメージ・マジックの手腕が発揮されるチャンスは増えるだろう。まさにそれが同社の狙いなのだ。

 2022年10月には愛知県春日井市にストックルームを兼ねたショールームをオープンした。東京都文京区に本社を構えるイメージ・マジックにとって、これまで東海エリアに持っていた拠点は岐阜県多治見市の工場のみ。その生産性を後押しし、発信力もこれまで以上に広げようとする構えだ。『潜在的なものも含めて、オンデマンドプリントのマーケットは予想以上に広い』と話す新町氏。自社開発、そして実運用に裏打ちされた確かな技術力と生産性が、DTFムーブメントをさらに加速させる。


【問い合わせ】
(株)イメージ・マジック
東京都文京区小石川1-3-11 ライジング後楽園ビル5F
Tel.050-5835-2150(土日祝日休み)
https://imagemagic.jp

 

 

▲ 愛知県春日井市に、新たにショールームを開設。「Trans Jet」シリーズや自動たたみ袋詰め機、製作サンプルなどを間近で確認できる。

この記事を見た人はこんな記事を読んでいます