職人仕事が“誰でもできる”に!
山川社長『これはゲームチェンジャー』
(株)イメージ・マジックは2021年9月、インクジェット印刷と転写用バインダー塗布を同時に行うオンデマンド転写シート作成システム「Trans Jet」シリーズを発売した。
▲ イメージ・マジックで稼働中の「Trans Jet DTTS-600」。
イメージ・マジックが発売したのは、プリント工場などで利用想定の「Trans Jet DTTS-600」と、レンタル販売ベースでショップなどでの活用を想定した省スペース型「Trans Jet mini DTTS-300」で、いずれもテキスタイルプリント用の転写シートを作成するマシン。水性顔料方式のインクジェットプリンターとバインダー塗布機(接着剤塗布機)で構成される。
「Trans Jet」シリーズで作成されるオンデマンド転写シートは、従来の転写シートに比べ、作業時間や作成コストを数分の一にするという画期的なもの。世界では、同様のシステムが一挙に広がり、急速に置き換えが始まっているという。
同プリントシステムを「ゲームチェンジャー」と呼ぶイメージ・マジックの山川 誠社長に、製品の機能や同社での導入、日本での発売、さらには将来展望までを訊いた。
誰でもアパレルプリントファクトリーに
ーシステムについて教えてください。
このシステムは、プリンターで転写用のシートへ出力した後、プリント面にホットメルトパウダー加工を行い熱処理し、巻き取りまでを自動で行えます。
従来必要だった「リタック」「カス取り」の作業は全て不要です。特に「カス取り」は、細かな柄だと作業時間がかかり、収益を圧迫するものでした。
ーカス取りはそんなに大変なのですか。どうしてカス取りが必要なのでしょう?
カス取りは、デザインの形にハサミやカッターなどでシートを切り抜かねばならず、複雑なデザインや文字、図形の場合には1時間以上かかるものもありました。
しっかりカスを取らないとノリがはみ出したようになり、見た目が汚く、クレームの原因にもなります。この部分は不慣れな作業者では時間もかかり、転写作業を標準化できない原因にもなっていました。
オンデマンド転写では、転写時の温度も圧力も低くて済むため、作業時間を約78%削減できます。これは圧倒的なスピードとコスト感です。
そして熟練も必要がないので、その日初めて転写加工をする人でもできてしまいます。まったくTシャツプリントをしたことがなかった会社も、その日からアパレルプリントファクトリーになれるのです。
転写の品質も色鮮やかで、糊のはみだしや残りがなく、洗濯堅ろう性にも優れています。これまで、素材に合わせて複数種類必要だった転写シートも1種類で済みます。
こういったいくつかの画期的要素があるオンデマンド転写を「ゲームチェンジャー」と呼んでいるのです。
▲ 靴のような立体物やポリエステルにも鮮やかにプリント。シートは1種類のみで可能に。
大半がこの方式に切り替わる! 海外ではすでに…
ー貴社はオリジナルグッズのEC「オリジナルプリント.jp」を運営されていますよね。自社で使っているシステムをコンペティターに販売することに不安はないですか?
それは全く心配していません。アパレルや雑貨のオンデマンドプリントは、非常に潜在市場規模が大きく、他社が始めてもまったく問題ないですし、当社だけで独占するほどの生産力もないです。
これまでとは異なる新しい市場になるので、オープンイノベーションのような形で、多くの会社が知恵を出し合いながら、市場形成した方が健全です。
もう一つ言えば、このシステムは非常に優秀で当社が売らなくても、絶対に他のメーカーが販売します。今後、テキスタイル系のオリジナルプリント、特にTシャツやトートなどでは、小ロットの大半がこの方式で生産されるようになるでしょう。
ーそんなにすごい製品なのですか?
はい。私は一目見てすぐに導入を決めましたし、Tシャツなどのプリントを手掛けた人が見れば、必ず欲しくなるものです。欧米では既に多くの会社がこのシステムに入れ替えており、中国でも数千台が導入されているそうで、その勢いは止まりません。
面倒だった「前処理」や「カス取り」にかかる時間や技術がいらないのですから、コストにうるさい海外の企業は飛びついています。当社の工場でも、今後は従来の転写プリント方式のマシンからオンデマンド転写システムへの入れ替えを急速に進めるつもりです。
▲ 「ギフト·ショー秋2021」で披露された「MARK Deco(マークデコ)」。会場では家庭用のアイロンで転写できる実演も行った。
ー日本も含めて様々なメーカーや販社がこのシステムを販売していますね。
プリンターとバインダー塗布機を一体化したものなので、多くの組み合わせが存在しています。日本で販売されているものは、そうではないとは思いますが、使えない“偽物”のような製品も多いと聞いています。
こういった偽物が出回ってしまうと「あれは使えない」という評判が広がりかねません。偽物を排除し信頼される市場を形成するために、当社がオンデマンド転写システム販売市場に参入したという側面もあります。
自社でも使うことを前提としているので、システムはもちろん、接着剤のパウダーや転写シートも様々なものを試し、実用途に耐えうる最適な組み合わせを用意しました。
ー改良している部分というのは?
特に気を使ったのは長時間の連続運転です。バインダー塗布機にパウダータワーと、パウダーの落下を減らすガイドを付け塗布を安定化、シートの蛇行補正を付けることで、約6時間の自動連続運転が可能となりました。
▲ バインダー塗布機にパウダータワーを取り付け約6時間の自動連続運転が可能となった。
ー自動運転は必要なのでしょうか?
プリント&カットでTシャツプリントを行っている会社さんならわかると思いますが、シートを出力する仕事では、夜間に自動運転をすることが多いのです。
自動運転時に機械が安定せず、塗布が不完全になったり、ジャム(シート詰まり)が起こったりすると、翌日以降の作業予定がすべて狂います。さらに、ジャムが起こった場合、バインダー塗布機は熱をかけているので、ヒーターによる発火の可能性があります。
当社の製品については自社でも使うユーザーの目線を持って、こういった事故が起こらないように、様々な改良を施してきました。今後はインクの改良も行い、さらに色の再現性を良くしていきたいとも考えています。
なければゲームにならない必須のシステム
ー販売代理店など、他社から販売したいという要望は?
販売代理店は続々決まっており、パイオテックが「オーダーグッズビジネスショー2021」で当社とともに出展し、デモンストレーションしてくれました。
大手プリンタメーカーでも、自社のユーザーに紹介してくれており、納入が決まった会社も増えています。
ーシステムのコンペティターについては?
健全な市場形成という意味で大歓迎です。当社自身が生産もしていますので、当社より良いシステムがあれば使ってみたいとも思っています。ただ、今のところは、様々な改良を施している「Trans Jet」シリーズより良いものは確認できていません。
ー先ほど言われていた偽物とはどういう不具合があるのでしょう?
例えば、接着剤やインクの塗布が安定しない、これらによって転写してもうまくいかないといったケースが確認されています。
また、接着剤をパウダーとして塗布せず、インクに接着剤を混ぜて出力するタイプが存在しますが、安定性が低く、プリント品質もあまり良くありません。最も困るのは、接着剤により1カ月程度でヘッドが壊れてしまうケースがあることです。
導入される方には、こういった要因をしっかり見極めて、システムを決めていただきたいと願っています。
ー保守サービスは?
当社で保守サービスを提供していますので安心して使用していただけます。
業界では「あの会社は売りっぱなし」という悪い評判を耳にすることもありますが、自社でも機器を使う立場なので、そういったことがないように、しっかりと保守体制を構築したいと考えております。
また、できるだけ故障しにくく、修理も簡単というシステムを目指して、さらに開発を進めていきます。
ー10月には「Trans Jet」で作成したシートそのものを販売する「MARK Deco(マークデコ)」のサービスも開始されました。この狙いは?
「Trans Jet」でつくる転写シートは、家庭用アイロンでもテキスタイルに定着できます。
このため、ユーザーがデザインした転写シートを送ってあげれば、その方が好きなものに転写できるのです。
ーTシャツプリントをしている貴社の立場は?
だからこその「ゲームチェンジャー」なのです。
当社で転写してお送りしてもいいですし、ユーザーがTシャツやトートバッグ、ポーチなどを用意して、自分で転写してもいい。こんな市場に変化していくと思うのです。
言い換えれば、このシステムを持っていなければ、このゲームに参加すらできないということです。
ー将来展望や今後の展開を教えてください。
今は「DTTS-600」の600mm幅が最大ですが、今後1,200mm幅の製品も投入する予定です。
この市場は、今急速に進化しているので、他社開発のものでも良いものがあれば、自分たちでも使ってみたいですし、販売もします。
当社の理念の一つは「プリント市場の拡大に貢献する」こと。とにかく新しい市場をつくることで、それが進化し新たなアイデアやさらに大きな市場が生まれるはずです。オンデマンドプリント市場には大きなポテンシャルがあるので、新しい市場を形成していきたいと思います。
【問い合わせ】
(株)イメージ・マジック
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▲ イメージ・マジックの山川 誠社長。