「アイドルマスター シンデレラガールズ」が
43台のプロジェクターで星空を描いた理由。
(株)バンダイナムコエンターテインメントは、「アイドルマスター シンデレラガールズ」の単独ライブ「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS Twinkle LIVE Constellation Gradation(アイドルマスター シンデレラガールズ トゥインクルライブ コンステレーショングラデーション)」を2022年11月26日・27日の2日間、ベルーナドーム(埼玉県所沢市)で開催した。
10周年ツアーの「次」を担うライブ企画
「アイドルマスター シンデレラガールズ」は、アイドル育成ゲーム「アイドルマスター」から派生したタイトルの1つで、2011年にサービスを開始したソーシャルゲームから始まり、リズムゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」、コミカライズ、TVアニメ、CDなどのメディア展開や、アイドルたちのキャラクターボイスを務める声優によるライブなど多岐にわたって展開している。
2021年から翌年にかけては10周年ツアーが企画され、2022年4月にはツアーファイナルとして今回と同じベルーナドームでもライブを行っている。『ファイナルを行うことで、一区切りついたばかり。次は何が来るんだろうとプロデューサー(※)の方々もワクワクしながら待っていたと思います』とバンダイナムコエンターテインメント担当者の岩本 海氏が話す通り、まさに“次の展開”を考えていたタイミング。運良くベルーナドームが再び使えることとなったのだ。
(※)ゲームのプレイヤーを「アイドルマスター」ではこう呼んでいる。
“冬”という季節を生かした演出を探る
ただここで懸念となったのは、会場を使えるのが11月であるということ。ベルーナドームの構造上、外気の流入は否めず、プロデューサーの方々には来場していただいたところで寒さばかりが印象に残ってしまいかねない。
『ツアーファイナルを行ったばかりの会場でもありますし、この条件のなかでどんなイベントをしたらいいのだろうと(株)マイノオトさんに相談を持ち掛けたのが始まりです』。
話を受けたJUNGO氏が思いついたのは、冬という季節感とベルーナドームという環境を生かした演出だった。
『屋外イベントにとって、冬というのは必ずしも良い条件ではありません。ただ“寒いからこそ”できることもあるかもしれない。そう考えた時に「冬の星空」が頭に浮かびました。ベルーナドームは実際の空も垣間見える構造ですから、夜空を演出するというのには持って来いかもしれない』。
実のところ、JUNGO氏の胸中には「人生で一度くらい、ドームでプロジェクションマッピングをやってみたい」という思いもあった。巨大プラネタリウムのような世界観を密かに抱きながら、実現に向けた準備がスタートした。
▲ 明るさ30,000lmのプロジェクターを43台使用したドームプロジェクション。冬という季節感とベルーナドームという環境を生かした演出が展開した。
30,000lmのプロジェクターを43台という規模へ
まず一行はベルーナドームの現地に向かい、プロジェクターで天井にモニター映像を映し出すテストを始めた。言うまでもなくドームの天井は高く、構造的に完全な暗転ができない、ましてやライブ当日はペンライトが振られることからも、相当量の明るさが求められる。事務所に戻ってからは3Dで天井構造を再現、制作した映像をシミュレートできる環境を整えた。割り出されたプロジェクターの台数は43台。そこへ明るさ30,000lmを求めるともなれば、その条件に合致するプロジェクターを集めるのだけでも至難の業。協力会社の力を得ながら同仕様のプロジェクター(全て「Christie Boxer 4K30」)をひたすらに収集し続けた。
もう一つ考えなければならないこととして、「アイドルマスター」の各アイドルをいかに演出するかという点がある。JUNGO氏は『あくまで一番見てほしいのは出演者、すなわちステージ上』と強調、実際にこれまではアイドルごとの演出はステージ背景に施すことも多かった。そこで思いついたのは「頭上に広がる夜空へ、アイドルの誕生月に応じた星座を描く」ということ。まさにJUNGO氏が抱いていた“巨大プラネタリウム”の実現に向けて、(株)光和の技術統括、そしてヘキサゴンジャパン(株)の機材提供・投影プランニング・投影調整のもと、最後の最後まで調整を重ねた。
▲ ドームの天井に向けて設置されたプロジェクター。
「シンデレラガールズ」の成長を両軸で願って
当日は、ハイライトとなる星空の演出を中盤以降に配置。アイドルの星座に応じた組み合わせでの歌唱など、同イベントならではの見せ方にもこだわった。詳細を知らされていなかったプロデューサー達も、目新しい演出にどよめき、新たな展開に心躍るひとときとなったに違いない。JUNGO氏は『当日投影されたものを見て「もっとこうできたな」など、つい次のことを考えてしまう瞬間もありましたが、この規模のチャレンジはそうできるものではありません。同業の知人も多数連絡をくれて、それだけのインパクトを出すことができたのかなと実感しています』と手応えを得た。岩本氏も『天井への投影などこれまでになかった演出を通して、新しい楽しさを知ってもらえたように思います。私自身も今回の演出にはシンデレラガールズ楽曲の世界に入り込める、没入感を覚えました』と喜びを語った。
続けて今後の展望について尋ねると『これからも、やはり一番は「シンデレラガールズ」のプロデューサーさんに楽しんでもらうこと』と話し、『“こんなこともやるんだ!”という驚きも含めて、今後もより愛を深めてもらえる契機をつくっていきたい』と意気込みを語った。
一方、JUNGO氏は少しだけ異なるビジョンを口にした。
『一人の演出家としては、より多くの人に作品を見ていただきたいという思いがあります。今回、こうした規模のプロジェクションマッピングを実現したこともそうですが、「こんなこともやってるんだ」と思ってもらえる仕掛けをつくることで、「シンデレラガールズ」を知らなかった人たちにも興味を持ってもらえるきっかけ、裾野を広げる機会をつくっていけたらと考えています』。
「シンデレラガールズ」のプロデューサー、すなわち既存顧客の“愛の深さ”へのコミットを語る岩本氏と、まだ見ぬ新規顧客へのアプローチを夢見るJUNGO氏。両者の思いは決して相反するものではなく、「シンデレラガールズ」という作品の成長を後押しする2つのベクトルに違いない。そもそも今回ほどの規模のイベントが実現したことも、双方が合わさってこそのものだろう。
「アイドルマスター シンデレラガールズ」は誕生から11年目を数えている。今後もプロデューサーの力とバンダイナムコエンターテインメントの企画、そして巧みな演出によって、国内外に輝きを放つ作品へと成長を続けるに違いない。