S&Dセレクション

〈2021.8.17〉図鑑の世界に入り込む新感覚の体験型施設「ZUKAN MUSEUM GINZA powered by 小学館の図鑑NEO」

映像・音響・照明により構築された
没入感のある体験型デジタルミュージアム。

 

佐々木ホールディングス(株)、(株)小学館、(株)エイド・ディーシーシー(以下、AID-DCC)、(株)ドリル、(株)電通、(株)サニーサイドアップ、(株)朝日新聞社の7社からなる合同組合は「ずかんミュージアム有限責任事業組合」を設立。新感覚の体験型施設「ZUKAN MUSEUM GINZA powered by小学館の図鑑NEO」(以下、ZUKAN MUSEUM GINZA)を2021年7月16日、東急プラザ銀座6階(東京都中央区)に開業した。

▲ 館内は「アントビューゾーン」「ウォーターフォールゾーン」「ディープフォレストゾーン」「アンダーウォーターゾーン」「ワイルドフィールドゾーン」の5つのゾーンで構成。24時間という時間の経過や天候の変動など、地球上における環境の変化を表現できるように設計されている。

 


▲ 映像・音響・照明により没入感のある空間を創出。同じ場所であっても時間帯によって観られる生き物が変化するので、一度来た場所で新たな発見があるかもしれない。

 

 

 ZUKAN MUSEUM GINZAは、デジタルとリアルが融合した空間をめぐりながら、図鑑の中でしか見ることのできなかった生き物たちに出会い、その息吹を感じ、さらにほかの生き物との出会いに歩みを進める、そんな世界に没入できる新感覚の体験型施設だと、ずかんミュージアム有限責任事業組合は説明する。情報に溢れ、様々なテクノロジーが日々更新されていくこの時代において、書籍のページをめくるのではなく、あらゆる生き物が共存している世界空間や時間を“めぐる”ことで“地球の自然”を五感で体感できる、新しい図鑑体験を提供するという。

 

館内を構成する5つのゾーンで
地球上における環境の変化を表現

 

 ZUKAN MUSEUM GINZAを構成するのは「アントビューゾーン」「ウォーターフォールゾーン」「ディープフォレストゾーン」「アンダーウォーターゾーン」「ワイルドフィールドゾーン」の5つのゾーン。来館者は、生き物を検知・記録するためのナビゲーターアイテム「記録の石」を手に、「小学館の図鑑NEOシリーズ」からピックアップした生き物が“デジタル”で可視化される世界に入り込み、図鑑書籍だけでは伝えきれないリアルな生態系、ひいては“自然”を体感し学ぶことができる。

 「記録の石」は、館内で出現する生き物の検知(生き物に近づくと、その生き物の記録のためのヒントを伝えてくれる)や記録(ヒントに書かれている、ある行動のタイミングで「記録ボタン」を押すと、その生き物の名前や行動の理由などを教えてくれる)を行うことができ、最後にたどり着く場所で、「記録の石」を所定の場所に置くことで、それまでに記録した生き物が飛び出すエンディングを見られるようになっている。「記録の石」のシステム構築はAID-DCCが行った。

 

Z_34158▲ 来館者は、生き物を検知・記録するためのナビゲーターアイテム「記録の石」を手に館内をめぐる。生き物に近づいて記録すると、その生き物の名前や行動の理由などを教えてくれる。ただし、あまり近づきすぎると逃げられてしまうので注意が必要。

 

 

生き物を探し回ることで
いつの間にか自分の知識となる

 

 ZUKAN MUSEUM GINZAの中は24時間という時間の経過や天候の変動など、地球上における環境の変化を表現できるように設計されており、空間や時間の経過と共にリアルな“地球の自然”を体感し、学びにおいて「読んで知る」と同等に大切な「実体験をつくる」ことが可能だ。

 同施設のクリエイティブディレクターであるAID-DCCの北井貴之氏は『体験型施設と言っていますが、何をもって体験とするのか、最初はすごく悩みました。ただ映像を流して、その内容をどう感じるかは観られた来館者の方の自由です、みたいな感じにはしたくありませんでした。来館される方に、能動的に生き物のことを知ってもらいたかったので、生き物を探すという行為をモチベーションに、館内をまわっていただく。その結果として、いつの間にか自分の知識となっている。そんな施設を目指しました』と語る。

 ZUKAN MUSEUM GINZAは、生き物そのものを伝えることをコンセプトにしている。多種多様な生き物を「小学館の図鑑NEO」シリーズから横断的にピックアップし、いつ訪れても、“地球の自然”を構成する様々な生き物に出会う体験が可能となっている。

 アニメーションに関しては、生き物ごとに、小学館の図鑑NEOチーム協力のもと入念につくり上げられており、特に生き物の普段の行動や警戒したときの動きなどは、様々な映像資料を観察し再現している。

 生き物の見た目は、それぞれの細かな特徴を捉えつつ、フォトリアルではなくイラストのようなペイントタッチで仕上げており、虫などの見た目が苦手な人でも楽しんでもらえるよう配慮。さらに背景を含め、全体を通して独自の世界観で築くことを構想してきたという。

 生き物やそこにある背景に関しても実際に生息している地域の特色を元にし、ペイントタッチを用いて表現したことで、様々な生き物たちが住む世界をずっと見ていられるような没入できる空間に仕上がっている。北井氏は『今回は、名前も知らないような珍しい生き物、ほとんど表に出てこないような生き物、見た目が綺麗な生き物、知っているけど誰も知らないような特性を持った生き物、この4つを軸に「小学館の図鑑NEO」から生き物を選びました。同じ場所であっても時間帯によって観られる生き物が違いますので、来館された方には、日の巡りも意識してもらえるような空間になっていると思います』と話す。自らの足で、出会い、観察し、記録する。凝縮された地球の自然をぜひとも五感で体感してほしい。

 


▲ 生き物や背景は、実際に生息している地域の特色を元にペイントタッチを用いて表現。様々な生き物たちが住む世界をずっと見ていられるような没入できる空間に仕上がっている。

 

 

合計150台のスピーカーによる
マルチサラウンドシステム

 

 今回、映像も去ることながら音響にも力を入れており、ZUKAN MUSEUM GINZAを構成する5つのゾーンで使用されたスピーカーの数は、合計で150台を数える。これによって、体験空間の中で“切れ目のない包囲感”と“全方位での定位感”をつくり、生物の動きに合わせたリアルタイムな音像移動を可能にしている。つまり、隔たりのないシームレスにつながった空間という意味では、実質150chでのマルチサラウンドシステムと言ってよいだろう。

 このシステムは、(株)cotonのサウンドプログラマーである宮本貴史氏によって実装、GENELEC社のパワードスピーカーを主として、指向性スピーカーや振動スピーカーを演出に合わせて使用することで、各生物の生態や体験コンセプトと親和性の高い音響効果を実現している。

 また、生き物の鳴き声や動作音といったワンショットのSE、エリアと時間帯に応じて変化する環境音など、使用している音色は合計2,000種類以上。それらを、生き物の動きや朝昼夕夜のタイムラインに従ってリアルタイムに同期させているというから驚きだ。音響設計・演出を担当した(株)インビジのアートディレクターである藤原 惇氏は、今回の音響演出について以下のように語る。

 『スクリーンの内側だけで体験を完結させるのではなく、生物の動きや自然の揺らぎを空間全体で捉えて、立体的に表現しているところがポイントです。

 例えば、動作音や鳴き声がスクリーンの外から近づいてきて生物が出現したり、逆にスクリーンの外側に生物が逃げ去るときも少しずつ遠ざかっていったり、視覚的には認識できないスクリーンの周囲まで空間を拡張した“気配”の演出を施すことで、体験に広がりと奥行きを持たせています。

 また、アントビューゾーンは蟻目線での体験なので、想像上の誇張表現となっていますが、「自分が小さくなったらこんな聞こえ方になるだろう」という、どこかリアリティを感じさせる共感値とのバランスを探りながら、迫力のある体験に落とし込んでいます。

 ほかにもウサギコウモリを音だけで表現している場所があるのですが、そこでは前から羽音が向かってきて、耳元を通り過ぎて後ろに抜けていく動きを、聴覚だけで認識させる、他とは毛色が違った体験を提供します。実はここでの体験は、コウモリが発するエコーロケーションを模した大人には聞こえづらい高周波音を出していて、子どもにだけ聞かせる仕掛けになっています』。

 150台のスピーカーで構成した立体音響、そして2,000種類を超える音色による演出は、これ以上ないほどの没入感を提供している。音にも意識を傾けることで、聴覚からしか得られない生き物の新しい発見があるかもしれない。

 

 

 

プロジェクター50台以上を使用、
照明では時間の流れなどを演出

 

 ZUKAN MUSEUM GINZAの映像演出用として設置されたプロジェクターは合計54台(パナソニック社製:10,500lm×1台、8,800lm×21台、6,200lm×19台、1,000lm×9台/LG社製:1,500lm×4台)。インタラクティブな演出を中心とした、没入感のある映像空間をつくり出している。

 なお、スタートエリアとアントビューゾーンでのプロジェクションには、DELL社製のPCワークステーション「Precision」(各1台)を使用。「Precision」にNVIDIA社のハイスペックグラフィックボード「RTX4000」を2枚ずつ搭載し、映像送出を行っている。プロジェクション設計を担当したヘキサゴンジャパン(株)のプロジェクション・エンジニアである畑 正太氏は『(スクリーンとなる)壁面までのプロジェクターの設置距離と光線の角度には、非常に神経を使いました。プロジェクションを行うエリア毎に、ここは何m、こちらは何mというように、投影が可能な設置距離があって、それらにあわせて設置するのですが、影が出ないように細かく調整しました。また、(映像の)ブレンディングも難易度が高かったですね』と語る。

 今回設置されたプロジェクターは、短焦点レンズを使用しているものも多く、投影面までの距離を近づけすぎると映像が曲がってしまうなど、調整に苦労したという。来館者に光線がかかることなく、ベストなプロジェクションを行うためにプロジェクターをどこまで離すことができるか。プロジェクション演出を行う上でのこの辺りのバランスは、非常に重要なところだろう。『最も難しかったのがワイルドフィールドゾーンですが、影の干渉を最大限に抑えられたかなと思います』と畑氏は自信を示していた。

 もうひとつ、ZUKAN MUSEUM GINZAの演出で重要な役割を担っているのが照明だ。虹や雷などの自然現象のほか、天井から流れる滝も照明で表現するなど、映像を補完するように空間全体をうまく調和させている。照明設計を担当した(株)六工房の代表取締役である林 之弘氏は『LED照明により24時間を24分間で再現。時間帯や場所に合わせて様々な色を使って演出しています』と話す。なお、アントビューゾーンにおいて、カブトムシとコガネムシが飛び去る際に風が起こるようになっているのだが、この風は照明の信号(DMX)で制御しているという。

 コロナ禍において旅行などの行動に制限がかかる一方、「リアル」「体験」というものの価値や、コト消費へのニーズはより一層高まっているように感じる。映像・音響・照明により構築された、没入感のある新感覚体験型デジタルミュージアムは、昨今の世の中の流れに、非常にマッチしているのではないだろうか。ぜひ足を運んでいただきたい。

 

 

【ZUKAN MUSEUM GINZAについて】
主催
ずかんミュージアム有限責任事業組合
システム設計
AID-DCC
Tel.06-6120-2895
https://www.aid-dcc.com
プロジェクション設計
ヘキサゴンジャパン(株)
Tel.03-6419-7653
http://www.hexogonsol.jp
音響設計
(株)インビジ
Tel.03-6459-1699
https://invisi.jp
照明設計
(株)六工房
Tel.03-5904-0369
https://www.rokukobo.com
公式HP
https://zukan-museum.com
公式SNS
〈Twitter〉@zukan_museum
〈Instagram〉@zukan_museum

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