ホテルのエントランスが2億5000万年前にタイムスリップ!?
植物の少ない都市生活の中で、人間と植物の関わりを考え、心地よく、良質な空間を想像していくことを理念に様々な事業を展開している(株)グリーンディスプレイ。同社が提案から施工まで行った「変なホテル舞浜 東京ベイ」(千葉県浦安市)のエントランスを紹介したい。
▲「変なホテル舞浜 東京ベイ」のエントランス。緑は造花でツルは本物を使用している。恐竜のいる奥の天井は黒、それ以外は白にすることで、没入感を演出しながらも、部屋の明るさを確保した。また、照明器具の色も天井と合わせて黒と白を使用している。床のタイルは地層をイメージ。恐竜の歯は、よりリアルにするため、また強度を上げるため、一本一本埋め込んでいる。歯はそこまで鋭いわけではないが、安全に配慮し、口の周りに近づけないように緑を配置している。造花はすべて防炎加工済み。造花の防炎は一般的には生地に練り込むが、グリーンディスプレイでは、既存の造花へ防炎加工を行うことができる。
植物・映像・香り・音・照明などで空間全体を演出する
商業施設の中で植木や季節のイベントに合わせて緑が飾られているのをよく目にする。虎ノ門ヒルズ(東京都港区)や東京ミッドタウン(東京都港区)、恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区)など、都内の名立たる施設にそのような草花を飾り付けているのが(株)グリーンディスプレイだ。
同社の事業は、屋内外に植物を用いた環境演出を、メンテナンスを含めて年間で提案する「プランツスケーピング」と、植物だけでなく、ディスプレイやイルミネーションなどを用いて季節の装飾を行う「シーズナルデコール」事業がある。同社であれば、1年間の装飾を施設内まるごと依頼できる。
さらに、新しく提案していく事業がある。様々な空間をより良くする「イマジカルスケープ」だ。これは、植物と映像、香り、音、照明などを駆使し、空間全体を演出するもの。映像は(株)ネイキッドやAOKIstudioなど、いろいろな会社と協力している。
「イマジカルスケープ」の事例として2017年3月にオープンした、ロボットがスタッフとして働く「変なホテル舞浜 東京ベイ」を紹介したい。同社はこのホテルのエントランスの環境演出を提案から施工まで行い、まるでタイムスリップしたかのような恐竜の時代を再現した。
没入感を最優先世界が変わるような体験を
グリーンディスプレイの執行役員 染野容子氏に「変なホテル舞浜 東京ベイ」エントランスの環境演出について伺った。
『この事例では、主に造花を使い恐竜のいるジャングルを製作しました。
クライアントであるH.I.S.ホテルホールディングス(株)様からは、没入感を出してほしいとのことでしたので、建物に入った瞬間に世界が変わるような体験ができるように工夫しました。
まずは“香り”です。ジャングルの香りというと、湿っぽかったり、草を刈り取ったような香りを考えると思うのですが、そうではなくて、恐竜を感じさせる香りにしたかったんです。とはいえ、恐竜の香りなんてわかりませんよね。そこで、既存の香りではなく、この“恐竜のいるエントランスの香り”をオリジナルで作りました。この場所に入った瞬間にハッとするぐらい濃い香りがします。嗅覚は五感の中でも一番記憶に残ると言われています。どこかで嗅いだことのある香りだと没入感が薄れてしまうと思うんです。現在は、チェックインとチェックアウトの時間帯のみ、香りを強く出しています。また、この時間帯のみ、15分に一度、恐竜の唸り声を流し、照明をあてて迫力のある演出をしています。
その他に、照明の演出では、木の影を床に向けて照らしています。空調で造花が揺れるので、それに合わせるようにして、木漏れ日を演出しています。恐竜や造花など、空間がリアルに作り込まれていても、光源により偽物っぽく見えてしまうので、今回は、特別に照明デザイナーに入ってもらい、器具や制御、見せ方などを手伝ってもらいました。
次に“音”についてお話したいと思います。今回音源はすべてオリジナルを作曲しスピーカーは全部で4台入れました。2台は、水が流れる音や鳥の鳴き声などの環境音を流し、1台はフロア全体に聞こえる恐竜の鳴き声、もう1台は指向性スピーカーを設置しています。恐竜の正面に立つと、鳴き声が頭上から自分に反響して聞こえるような、特別感を演出しました。
最後に、1番注目されるティラノサウルスについてです。先ほどもお話しましたが、没入感を出すためにあれこれ試行錯誤をしました。ティラノサウルスに関しては、サイズにこだわり、1/1スケール(体長約5.5m)になっています。
恐竜は、日々研究されており、どんどん新しい説が発表されていくため、正しいとされる姿が時代とともに変わってしまいます。本物に合わせるのは不可能なんです。しかし、サイズは、実際に骨が残っているのであまり変わることがないだろうと、考えました。そのまま設置してしまうと、大きすぎてロビーの機能を果たせなくなってしまいますので、壁から頭と胸、前足と左後足を出しました。そうすることによって、壁の後ろの世界が想像できるだろうと思ったんです。
あとで調べたことなのですが、ティラノサウルスの1/1スケールはなかなかないそうです。
また、恐竜の色は緑か茶色か、という色の問題もありました。緑色だと周りと同化してしまうので結果的に茶色に近い色にしました。それも写真映えを考えて濃すぎない茶色です。
また、完成後、ティラノサウルスに乗っているような写真を撮れるようにしたい、という依頼もありました。ティラノサウルスにはそんなに強度をもたせていないですし、なにかあっては大変なので、脚立に義岩カバーを付け、岩の上に乗り恐竜に覆い被さっているような写真が撮れるようにしました。みなさん、SNSに写真をアップしたいと思っていますし、ホテル側も拡散してほしいと思っているので、写真映えにもこだわりました。
このエントランスには、宿泊しない方でも入ることができるので、ぜひみなさんに見てもらいたいです。
今後も、「イマジカルスケープ」事業にも力を入れていきたいと考えています』。
■ 照明デザイン協力
トモルデザイン•メグロ(株) 目黒朋美
こちらを捉える目がとても怖い。迫力を出すために、眼球の造作にも時間をかけた。
ティラノサウルスの足もとにもツルを配置し、ジャングルに踏み込まないように工夫した。
フロント。壁面には造花とプリザーブドモスが使われている。
カウンターにも演出を行っている。
こちらの情報は月刊サイン&ディスプレイ2017年5月号で掲載しております。
問い合わせ
(株)グリーンディスプレイ
東京都世田谷区三宿2-15-14
TEL 03-5779-6701