S&Dセレクション

〈2024.4.3〉「namco TOKYO」の“ネオ・トーキョー”の世界観を表現するネオングラフィック

歌舞伎町での新たな夜遊びへ
積層するネオン風LEDが誘う世界。

2023年4月にオープンした「東急歌舞伎町タワー」(東京都新宿区)では、3階部にアミューズメント施設「namco TOKYO」を設える。その空間デザインを担当した(株)乃村工藝社の田仲史明氏は、“アソベル・ノメル・ツナガレル”を施設コンセプトに、独自の世界観を表現した。ネオングラフィックを採用したサイン照明を中心に、狙いや工夫を訊いた。

 

 



“歌舞伎町での夜遊び”に
誘う空間づくり

 

 そもそも「namco TOKYO」は、(株)バンダイナムコアミューズメントが「エンターテイメントシティ歌舞伎町」に相応しい新業態を追求したアミューズメントコンプレックス。クレーンゲームやガシャポンなどのアミューズメントの他、座ってくつろぐことのできるフードエリアや、LEDビジョン付きのイベントスペースも備える。国内のゲームセンターでは珍しく酒類の提供を行い、ゲームで遊びながら飲めるボトル酒を多く取り揃えた点も特徴だ。

 この空間デザインにあたり、『歌舞伎町での夜遊びの新たな選択肢になるように』とアイデアを練った田仲氏。そこに制約をもたらしたのが、風営法に基づく営業という同施設の立ち位置だ。規程に沿う以上、調光は不可、照明は照度を10ルクス以下にできないことが条件となる。コレクション性の高い物販も行うことで、演色性、一定の照度を求められたこともあり、照度を確保した上で魅力的な照明空間をつくることが使命となったのだ。



“ネオ・トーキョー”に相応しいサインの追求

 

 最終的に田仲氏は、歌舞伎町の街並みの延長をイメージしてネオンの世界観をふんだんに取り入れた。入り口のサインを照らす直管形LEDは、アクリル越しに姿かたちが見えるように配置し、あえて飾らない無骨さを匂わせる。中に進むと目に飛び込むのは『ユーザー世代を意識した』と言うネオングラフィックやコピーの数々。デザインのバリエーションは47種類、一部は複数製作したことから総計56枚に及び、いずれも従来のネオン看板とは一味違う、ネオ・トーキョーの世界観を表現する。

 確かに「ゲームセンター」「ガシャポン」といった表示に限らず、「あなたのスキが見つかる夜街」「好きなところはいっぱい言える」といったメッセージ風のサインも飾られている。
 これらの多くは、企画段階でバンダイナムコアミューズメントの社員により発案されたフレーズで、選りすぐりをコピー化したものだ。『グラフィックをデザインする際に注意したのは、できるだけカタカナを多く用いること。ネオンで彩られた街並みと言うと、香港やラスベガスといった地域も連想される。漢字や英語を多く用いれば、恐らくそれらに寄ったものになるだろうが、あくまで私たちが表現したいのは“ネオ・トーキョー”』と同氏は強調した。

 この照明に採用されたのは、(株)タカショーデジテックの「NEO FREE」である。透明アクリルを前提としており、配線が一つにまとまること、施工はアクリルの取り付けだけという簡便さが特徴だ。田仲氏も選定理由として『配線処理がきれいで裏面からも光って見えること、また様々なタイプが存在するネオン風LEDサインの中で、ローコストで生産できること』を挙げ、加えて今回のために生産体制構築を約束してくれたことが決定打だと話した。いざ天井から吊り下げられた各々は、多彩なカラーリングが空中に浮かび上がるように発光し、文字や絵も忠実に表現されている。

 また、ベースが透明であるがゆえに積層して見え、空間の奥まで覗いてみたいという好奇心をかき立てられる。これに装飾を担うライン照明や映像装置、鏡面素材が合わさることで妖艶な浮遊感が増幅し、遊ぶだけでも食べるだけでもない、まさに“アソベル・ノメル・ツナガレル”空間が完成されていたのだ。


 



クライアントワークという
特性を経て

 

 一連の空間デザインを経て、田仲氏は『バンダイナムコグループの様々な商品が集合し、いろいろな「好き」が集まったこの場所で、「好き」を楽しんでほしい・発見してほしい・共通の「好き」がある人との時間を大切にしてつながってほしい』との思いを語る。

 これはバンダイナムコグループが2022年から掲げる新ロゴマークが「世界中のファンとコミュニケーションし、つながりながら、バンダイナムコのエンターテインメントを創り上げていく」ことを意図した点にも通じており、改めて両社が思いを一つに「namco TOKYO」を形にした様が窺える。この象徴として、同施設内のインショップのサインにはロゴマークから“吹き出し”が引き継がれ、様々なレーベルの集結が可視化されていた。

 こうして乃村工藝社がクライアントとの連携を図るのは言うまでもないが、加えて今回のような複合型施設では、周辺テナントとの兼ね合いも切っては切れない。無論、他社であるゆえにオープンまで情報開示できないことも想定されるが、今回に限ってはデベロッパーである東急(株)から、各所を手掛ける乃村工藝社の担当者間での連携を求められたという。なかでも田仲氏がプロジェクト当初から気にかけたのは、吹き抜けでつながる2階部分との関係性だ。同施設において2階はエントランスにあたり、多くの人が往来するのはもちろん、その人たちに上を見上げてもらうことができれば、上層階への回遊にも誘える。そこでテナントが決定してからは、相乗効果を見込んで一層に連携、結果的には『当初のコンセプト通り、遊び場としての方向性に自信を持って進めることができた』と語った。






サイン照明の担い手として
求めること

 

 さて、話を広げて「サイン照明を選ぶ観点」というテーマを投げかけると、田仲氏は『関連機材(トランス、電源ボックス、排熱)のおさまり、メンテナンスのしやすさ、あとは上質感』を挙げた。続いて「サインで大切にしていることは」と投げかければ、『見た目は言うまでもなく、“位置”を大切にしている。まず情報提供の階層を整理して、掲示位置、サイズ、形式を検討して。それに際して思うのは、日本国内ではどうしてもサインが乱立しがちということ。また、機能的に必要だからと言って、空間に遠慮するあまりに小さくシンプルになるだけでも工夫がない』と話した。そして、サウジアラビア王国のショッピングモールでトイレを示す大きなサインを見かけたことを引き合いに出し、『装飾と調和しつつも、装飾に埋もれないで機能を果たす配置計画が求められているように感じる』と加えた。

 言うまでもなく、サイン照明を取り巻くテクノロジーも日進月歩で進化している。光源の色や形、サイズの多様化も進めば、LEDビジョンにおいても形や動きに自由度が増してきた。乃村工藝社でも、日東電工(株)との協業で、新しい光制御技術を世に送り出そうとしている。
 その技術から生まれた「RAYCREA(レイクレア)」は一般的なガラスやアクリル板に貼りつけられるフィルム仕様で、端部にLED光源を組み合わせることで、フィルムを貼った面だけを光らせることができる。新たな面照明の可能性を示唆しており、社内外とも注目度が高いという。
 こうした技術を巧みに用いながら、演出性と収益性の双方を追求する空間デザイン。「namco TOKYO」を一つの成功事例として、ますます可能性を広げていくことだろう。

©Bandai Namco Amusement Inc.

 

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