S&Dセレクション

〈2024.9.10〉捺染顔料転写システム「TRAPIS」

1種類のインクで様々な生地に捺染、
「TRAPIS」がもたらす“新しい風”。

産業用インクジェットプリンターなどを手掛ける(株)ミマキエンジニアリング(以下、ミマキ)は、様々な繊維生地へのプリントが可能な捺染システム「TRAPIS(トラピス)」を新たなソリューションとして用意した。その特徴について、同社グローバルマーケティング部 担当部長の原田智充氏に訊いた。

▲ 「TS330-1600」(昇華転写インクジェットプリンター)で専用転写紙にプリントした絵柄をMonti Antonio社の転写機を使って布面へ捺染しているところ(東京都品川区のミマキJPデモセンターにて)。



ミマキが提案する新しい捺染システム

 

 ミマキが独自に開発した「TRAPIS」は、「Transfer(転写)・Pigment(顔料)・System(装置)」を語源としており、専用転写紙にプリントした絵柄を転写機で布面へ捺染するシステムを指す。絵柄のプリントには同社の昇華転写インクジェットプリンター「TS330-1600」を、転写には欧州のMonti AntonioやKlieverikの製品を推奨している。またシステム内の専用転写紙は、顔料インクを幅広い生地に転写し定着できるよう今回新たに開発したものだ。

 このシステムの特徴として、原田氏は最初に『誰でも簡単に使える』点を挙げる。現在市場で多く使われている染料捺染は、デジタル・アナログ問わず生地の前後処理が必須となる。さらに使用する薬剤の種類や濃度・処理時間や温度など、多大な工程管理を含み、職人の知識と経験を必要とするのだ。

 それに対し、同社の「TRAPIS」は生地の前後処理を必要とせず、紙へのプリントと布への転写というシンプルな工程で完結する。主な工程管理は転写時の温度と時間のみ。産業プリントの経験が無くとも、少ない研修でオペレーションが可能となるのだ。また染料捺染と比較し廃水がほぼゼロのため、システムの導入における浄水設備などの膨大な付加投資も求められない。繊維産業の共通課題である工業廃水の削減にも貢献する格好だ。

 これらの利点に加え、『様々な生地への捺染が可能』な点も見逃せない。と言うのも、従来織物への捺染は、素材別に異なる染料の使用を余儀なくされてきた。そのうちスポーツウェアに代表されるポリエステルには昇華転写プリントが普及したものの、天然繊維は活路が見出せず、その多くを海外の大規模工場での捺染に委ねてきた。すなわち生産と輸送に掛かる日数は大きく、消費地のブランドや小売業は在庫リスクを抱えながら販売している。

 こうした現状を踏まえ、「TRAPIS」はナイロンのような化学繊維、シルクやコットン、羊毛といった天然繊維にも対応した。小規模な設備で水を使わずに、それでいて様々な生地にプリントすることを可能としたのだ。よって、これまで特定の地域で大量生産されていたものを、消費者に近い店舗やデザインオフィスなどで小ロットかつ短期間で担えるようになる。テキスタイルのサプライチェーンに対しても、刷新が期待できる格好だ。






「TRAPIS」が抱える課題と可能性

 

 こうしてシステム販売を間近に控えた「TRAPIS」は、現在同社内でのテストプリントを繰り返す他、去る7月には社外からも参加可能なテキスタイルプリント体験会を実施。9月頃の製品化に向けて着々と準備を進めている。

 原田氏は現状の課題について『同システムでプリントした生地はどうしても生地表面の風合いが変化してしまう。直接肌に触れるファストファッションのようなアパレルというよりも、ナイロンアウター、ネクタイやポケットチーフのような雑貨、あるいはカーテンやソファなどのインテリア装飾に適しているかもしれない』と話す。

 水着のような伸縮素材には、比較的素材感を損なわずにプリントできることも確認できており、通常は転写の難しい化学繊維と天然繊維の混紡生地にも対応できた。今後の戦略について同氏は『アウトドアブランドの製品と「TRAPIS」は、親和性が高いのではと見込んでいる。導入へ向けて積極的に動いていきたい』と意気込んだ。



アパレル業界に「TRAPIS」を導入する意義

 

 言うまでもなくミマキという会社は、長らくインクジェットプリンター市場で名を馳せ、多くの企業に支持されてきた。ただ、そこに甘んじずに『デジタル化率の伸び代があるテキスタイル・アパレル分野を刷新するプリントソリューションを提供していきたい』と意気込むのが原田氏であり、「TRAPIS」というソリューションだ。『アパレル業界の中を覗くと、布を準備する人にデザインする人、パターンを用意する人、それに沿って裁断する人、布を縫う人にパッケージングをする人…と、工程が極めて分業化されている。TRAPISで捺染がより身近になれば、複数工程を一括で担う人が出てくるなど、サプライチェーンにも影響を与えることができるかもしれない』と期待を口にした。

 『それに』と付け加えるのが、工期の圧縮と衣類の廃棄減少についてだ。先述のように海外の工場に生産を委ねてきた従来では、どうしても工期を長く見込まざるを得なかった。同氏は『アジアの特定生産国でプリントするとなると、どうしても大量のプリントが前提となる。早いと1年ほど前にはデザインを決めて発注しなければならないのではないか』と話し、『昨今はアパレルの余剰在庫やその廃棄も問題視されている。TRAPISを導入していただいて、消費地に近いところで小ロット・多品種・多彩なデザインで生産することができれば、在庫を抱えるリスクも最小限に、例えば“来週売る分だけを今日作る”というテキスタイル産業の高付加価値に繋げることができるのでは』と述べた。




▲ 「TRAPIS」はナイロンアウターやネクタイ、ポケットチーフ、さらにカーテンやソファなどにもおすすめ。




年間50セットから、30億円規模へ

 

 これから本格化する販売活動について、原田氏は『(プリンターと専用転写機で)1セット約1,500万円。これを1年目でまず年間50セットを売りたい』と、当面の目標を口にした。さらに『年間120セットほど受注できる商品にして、紙やインクの売上も含めて年間30億円のビジネスへ。この規模を目指していきたい』というのが、ミマキの思い描く「TRAPIS」の未来予想図だ。

 原田氏はこのシステムのプロモーションを始めてから、製品企画責任者と共に試行錯誤を繰り返しているという。産業用インクジェットプリンターのミマキが、アパレル業界へ一石を投じ、テキスタイルプリントのあり方を変える未来も近いかもしれない。



【問い合わせ】
(株)ミマキエンジニアリング
長野県東御市滋野乙2182番地3
Tel.0268-64-2281
https://japan.mimaki.com

 

 

 

 

 

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