S&Dセレクション

〈2021.1.12〉伝統工芸技術と最新の印刷技術を活かした製品づくり|(株)菊池襖紙工場

 日暮里駅(東京都荒川区)から日暮里・舎人ライナーに揺られて約20分。見沼代親水公園駅で下車し、東京都足立区と埼玉県草加市を隔てる毛長川沿いを歩くと、(株)菊池襖紙工場の広大な敷地が現れる。

 

時代の流れに耳を傾ける

 

 菊池襖紙工場は1924年創業。もともと東京都墨田区を拠点に、数人の職人だけで襖紙の手捺染加工を行っていたが、戦後、復興と住宅建築のラッシュにより襖紙の需要が拡大し、1948年に菊池襖紙工場を設立した。世の中の需要に対応するため、1955年には独自の襖紙印刷用の輪転機とエンボス加工機を開発。手刷加工と機械印刷を併用し、大衆向け襖紙メーカーとしての先陣を切ることとなる。機械化により、スピード、技術、品質が飛躍的に向上した。事業拡大に伴い、現在の拠点である埼玉県草加市に工場を移転したのが1964年。それから徐々に敷地を拡大し、現在では事務所1棟、工場4棟、原紙倉庫1棟、製品倉庫2棟、社宅1棟から成る。

 襖紙のトップシェアを誇る同社だが、事業拡大の背景にあるのは襖紙の製造だけではない。時代と暮らしのニーズに対応し、2008年からは壁紙、粘着シート、ガラス用フィルムなどの壁装材全般も製造するようになった。

 また、昔から使い続けている独自開発の機械のみならず、最新の機械も次々と導入。現在では、大型印刷機16台をはじめに、カットマシン、コーター機、箔押し機などを用いて製造を行っており、数々の大手壁紙メーカーやインテリアブランドのOEM製造を一挙に引き受けている。

 

 

▲ 昭和から使い続けているオリジナルの印刷機械は、令和になった現在でも使われている。中には、創業者自身がつくった機械も。

 width=

▲ その日の温度や湿度によって機械は使い勝手が異なる。長年培った感覚を頼りに、職人たちが機械を使いこなす。

 

 

伝統技術を守る

 

 

▲ 何年もかけて完全に乾燥させた竹刀で、金箔を糸状に切る様子。あまりにも細かい作業に思わず息を潜めてしまう。

▲ 米粒サイズに刻まれた金箔。

 

 

 創業当時から、伝統的な江戸からかみ・砂子の技術を守りながら、大型印刷機での襖紙・壁紙製作も行ってきた菊池襖紙工場。2005年には、金銀砂子細工の技術を後世に伝えていくため、「伝統工芸室」を設立した。

 金銀砂子細工とは、日本古来の伝統的な襖紙の装飾技法。金箔や銀箔を粉末状にしたものを竹筒に網を貼った箔筒に入れて散らす「砂子振り」や、箔を竹刀で糸状に細かく切る「野毛」、柿渋染めをして文様を彫った和紙を型紙に雲母などを摺る「渋型摺り」など、さまざまな表現技法がある。

 伝統工芸室では、オーダーメイドの襖絵・屏風の製作や、神社仏閣・旧邸宅の和紙装飾の復元などをはじめに、現代の暮らしに沿って考案された装飾パネル「逸品集」や、エレベーター扉の装飾など、小さなものから大きなものまで幅広く手がけている。

 

 

▲ 装飾用の小さなパネルに描かれた図柄。わらび、たんぽぽ、つくしなど春を連想させるモチーフが描かれ、日の光が射しているかのように箔があしらわれている。

▲ ゴルフクラブに装飾された金銀砂子細工。

 

 

 また、アメリカ・シアトルの高級ショコラティエ、フランズチョコレートでも、伝統工芸室でひとつひとつ丁寧に製作された和紙を使用している。チョコレートの品質を保つ桐箱に貼られた和紙は、襖紙の技術とシルクスクリーンなどの技法が用いられ、金箔や銀箔が散りばめられている。上品な桐箱は「チャバコボックス(茶箱)」と呼ばれ、現地では人気が高く、インテリアとして部屋に飾る人も多いそうだ。

  

 

 現在、伝統工芸室の職人は山本さんと青柳さんの2名。製作を手がけるだけでなく、(株)マスミ東京(所在地:東京都豊島区)にて定期的にワークショップも開催しており、日本の誇る伝統技術を広く伝える活動も行っている。 

 

 

すべての工程に職人が関わる

 

 

 多様な機械を導入している菊池襖紙工場だが、一方で熟練の職人たちを多く抱えている。実際に工場へ足を運ぶと、彼らの手仕事に圧倒される。デザイン、製版、印刷、エンボスや糊付け加工、包装までそれぞれの工程にエキスパートが存在する。

 まず、デザイナーがデザイン画をおこし、顧客との打ち合わせを繰り返してデザインのブラッシュアップを行う。

 デザインが決まったら、次は版製作。デザインを実現するために、最も適した印刷方法を検討する。ゴム版、樹脂版、樹脂平版、PS版、スクリーン版、グラビア版など、印刷の種類によって版材はさまざま。例えばゴム版で製作する場合、職人はまず刃をつくるところから始める。ゴムに刃を入れると、当然切れ味が劣化してくるので、都度こまめに刃を研ぐ。刃を研いでは彫り、研いでは彫りという作業を繰り返してようやく版が完成する。

 

 

 

▲ 版製作をしている、製版担当の須賀さん。

 

 

 また、絵画などのデザインを襖紙に用いる場合は、製版カメラという機械を使用。絵画をネガやポジにおこして、デザインを再現する仕組みだ。現存している製版カメラは全国でもわずかで、同社では今もなお現役として使用されている。

 版が完成したら、いよいよ印刷工程へ。事務所が入っている棟の向かいに工場棟があり、印刷以降の工程はすべて工場棟で行われる。フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などの機械を用いてそれぞれの特徴を活かし、デザインや素材、製品の用途に適した方法で印刷をする。機械といっても温度や湿度によって使い勝手が異なるため、機械のクセを知り尽くした職人による熟練の経験と感覚が欠かせない。

 

 

 

▲ ひとつひとつ、職人の手で丁寧に彫られた版材。

 

 

自社製品の販売をスタート

 

 

 

▲ 売れ筋商品「貼ってはがせてのり残りしない壁紙」。独自開発の粘着加工により、しっかり貼れてきれいに剥がすことができ、賃貸物件でのDIYに最適。人気のレンガ調と木目調(全8柄)に加えて、新たに北欧シリーズ(全11柄)がラインアップ。

 

 

 創業から100年が経とうとしているが、変わらず菊池襖紙工場が守り抜いていることがある。企画・デザインから製造までの一貫した体制だ。各工程に携わる職人が丁寧な仕事を行ってきたからこそ守られた体制である。

 近年では、この工程に「販売」も加わった。プロ向けの製品に止まらず、一般家庭向けのDIY製品の販売も開始したのだ。ホームセンターやネット通販を通じて販売されている「貼ってはがせてのり残りしない壁紙」や「WallLip(ポイントメイク専用壁紙)」は、賃貸でも手軽に模様替えができることから、同社の売れ筋商品となった。

 常に時代のニーズに沿って事業を拡大し続け、かつ、金銀砂子細工をはじめとした職人技術を継承してきた菊池襖紙工場。これからの100年、同社はどのような新しいチャレンジを打ち出してくるのだろうか。

 

 

株式会社 菊池襖紙工場 

埼玉県草加市新里町1355番地

TEL. 048-925-1245

https://fusuma.co.jp

 

代表プロフィール

 

菊池義明 Yoshiaki Kikuchi

 

東京都墨田区出身、日本大学経済学部卒業。内装材料ブランドメーカーを経て、家業である菊池襖紙工場へ入社。もとより襖紙加工の職人集団であった工場への、営業の必要性の提議、各ホームセンターとの直接取引や、占有率アップのための技術や設備拡大に取り組み、取り扱うインテリア商材の幅を広げる。

 

1998年代表取締役に就任し、現在、東京内装材料協同組合副理事長も務める。

 

体力維持のための山歩きは30年続けている趣味。

 

この記事を見た人はこんな記事を読んでいます