世界遺産・元離宮二条城の景観を生かした
インタラクティブ・ランドアート。
(株)ワントゥーテンは、2021年11月5日から12月12日までの期間、世界遺産・元離宮二条城(京都府京都市)において、クリエイティブAIによる国内最大級のインタラクティブ・ランドアートや、京都の名店の食の数々を楽しめる没入型アート体験イベント「ワントゥーテン 二条城夜会(以下、二条城夜会)」を開催した。
▲ クリエイティブAIによる約400㎡の巨大インタラクティブ・ランドアート。来場者の密度や位置、周辺の天候などの環境情報をAIが解析し、より自然現象に近い、予測できない感覚的なインタラクティブアートを創り出す。
ワントゥーテンでは古くからある日本各地の伝統文化を見直し、創造性と先端テクノロジーを掛け合わせてアップデートする「JAPANESQUE PROJECT(ジャパネスクプロジェクト)」を展開。その一環として実施しているのが、各地のユニークベニューと呼ばれる場所において、プロジェクションマッピングなどのデジタルテクノロジーを使った演出と地元の食を愉しむ「夜会プロジェクト」だ。これまでに芝離宮(東京都港区)や名古屋城(名古屋市中区)などで開催しており、京都では今回が初開催となった。
様々な情報を複合的にAIが解析、予測できない不規則な演出が発現
『演出を体験されている方の位置や、その日の天気、温度などを日々学習させてコンテンツに落とし込み、それを体験者にフィードバックする。当社ではこの技術をクリエイティブAIと呼んでいます』と話すのは、ワントゥーテンのテクニカルディレクターである岩中宏充氏。二条城夜会のメインコンテンツとも言えるインタラクティブ・ランドアートは、このクリエイティブAIによって実現している。現場における様々な情報を複合的にAIが解析し、予測できない不規則な演出を発現させる。
ワントゥーテンは2020年1月、シンガポール・セントーサ島のシロソビーチにおいて、常設型のインタラクティブ・ランドアートである「マジカルショア/Magical Shores」の演出を手掛けた。マジカルショアでもクリエイティブAIが採用されており、ビーチに設置されたセンサーの時系列センシングデータから特徴量を抽出し、“ゆったりと楽しんでいる”“活発に遊んでいる”などのビーチ全体の人々の活動具合をAIが判断。シロソビーチ周辺の天候および気温などの環境状態のビッグデータや、ビーチにおける人々の活動具合により、様々な演出が展開する。
今回、この演出を日本でも体感できるとあって、その注目度は非常に高いものとなった。同社の機械学習エンジニアである隅田智之氏は『セントーサ島と同じように、プロジェクションする環境をセンシングし、そこで得た情報を機械学習させています』と話す。
また、岩中氏は『北陽電機社製の測域センサーを使用したのですが、このセンシング技術は、当社が3〜4年前から使っている技術ですので、それほど大きな苦労はありませんでした。それよりもどのようにして二条城を隠さずに投影面を確保するか、というところにすごく悩まされました。現場では、既存の日本の古き良き文化を生かしつつ、今ある技術を使ってより良いものに昇華させようという思いでやっていました』と語る。
さらに砂利への投影について訊くと岩中氏は『実際に砂利に投影したらどうなるのかと、ものすごく検証しました。結果としましては、大きな課題にはならず、むしろ砂利の質感が良い感じに見せてくれました』と話していた。
▲ 砂利へのプロジェクションでもしっかりと、色と映像が映し出された。グランドレベルでは100〜120ルクスほどの明るさが出ているという。
リアルタイムでレンダリング、補正された映像を常に表示する
二条城のインタラクティブ・ランドアートでは、パナソニック社製のレーザー光源プロジェクター(輝度は全て20,000lm)が6台使用されたのだが、プロジェクターを設置するためのタワーが外から見えてはいけないなど制約があったという。これについて、特別協賛でプロジェクターの設置・調整を行ったヘキサゴンジャパン(株)の吉田ひさよ氏は『どこまで投影範囲を広げられるかというのが課題でした。何度もシミュレーションを重ねながら、物理的な制約の中でベストな位置に(プロジェクターを)設置しています。プロジェクターの角度は全て50度で投影、グランドレベルでは100〜120ルクスくらいの明るさが出ています』と話す。
同インタラクティブ・ランドアートは、手前から奥に向かって斜めにプロジェクションを行っている。これにより生じる課題もあったようだが、どう解決したのだろうか。ワントゥーテン 事業開発部の澤村宗徳氏は以下のように語る。
『映像を台形にして投影していますので、真ん中はまっすぐなのですが、左右は徐々に外側に広がっていきます。これを四角に直すために「MadMapper(マッドマッパー)」というソフトを使用。6台のプロジェクターによる映像のブレンディングとジオメトリ補正もあわせて行っています。今回のようにインタラクティブ性のあるコンテンツですと、リアルタイムでレンダリングをかける必要がありますので、「MadMapper」で歪み補正した映像を常に表示するというやり方です』。
▲ 映像投影には、パナソニック社製のレーザー光源プロジェクター(輝度:20,000lm)が6台使用された。
ソーシャルディスタンスをアート表現に変換
二条城夜会のアートコンセプトは「二条城に宿りし大地と水のエネルギーと、あなたが呼応するインタラクティブ・ランドアート」。京都は古くから風水をもとにつくられた都市であり、二条城の地下には「良い気を運ぶ水のエネルギーが流れている」など、数々の言伝えがある。歴代の徳川将軍も、その後、離宮として使用された皇室や招かれた要人たちも、このエネルギーを感じていたのではないだろうか。
今回、ワントゥーテンは、これらの言伝えから着想を得て、二の丸御殿の前の庭を使い、徳川将軍や皇族たちがエネルギーを感じていたであろう情景を約400㎡の巨大な没入型インタラクティブ・ランドアートで表現。二条城の地下を流れる気の流れを、悠々とした龍で表現し、さらにそのエネルギーを感じ取っているということを、来場者の足元に広がる光のサークル演出で表現した。同社代表取締役社長(エグゼクティブプロデューサー)の澤邊芳明氏は以下のように語る。
『京都に本社を持つ企業として、いつか京都で(プロジェクションマッピングによる演出などを楽しむイベントを)やりたいという思いがありました。実は去年も京都の岡崎エリアで「夜会」の予定があったのですが、コロナで中止になってしまいました。今回、満を持して実施することができて嬉しく思っています。
シンガポールのときもそうだったのですが、やはり景観が素晴らしいので、そこを邪魔するのではなく、生かすかたちで作品をつくりたいと思っていました。文化財の中で、ここまで地面に対して、大きくプロジェクションしている事例はそうそうないと思います。
また、人感センサーを使って、人と人が一定の距離を保つことで、映像がより美しくなるように設計しています。ソーシャルディスタンスを保ちながら、それぞれが良いバランスで調和していく世界というものをアートで表現しました。
床面へのプロジェクションというのは面白い表現だと思っていて、特に日本の海岸や庭園など、建造物がなくてもこういった表現ができる場所は多くあります。可能性をさらに広げられるんじゃないかと思っていますので、今後も色々やっていきたいと思っています』。
二条城のインタラクティブ・ランドアートでは、ソーシャルディスタンスを、ルールではなく、アート表現に変換させることで、自然にソーシャルディスタンスを促している。コロナ収束への祈りや願いといったものを来場者参加型の演出の中に盛り込んだ今回のコンテンツは、今の時代に即したものと言える。ワントゥーテンの今後の展開にも注目したい。
■ 主催
(株)ワントゥーテン、京都市
■ 総合演出
(株)ワントゥーテン
■ プロジェクターの提供・設置・調整
ヘキサゴンジャパン(株)
動画はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=V1m1agwaXpA
【問い合わせ】
(株)ワントゥーテン
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