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キャナルシティ博多開業20周年記念イベント ワンピース ウォータースペクタクル

キャナルシティ博多全体をエンターテインメントな空間へ。

福岡市博多区にある大型複合商業施設「キャナルシティ博多」〔運営管理:福岡地所(株)〕では、開業20周年を記念した大規模なリニューアルを実施。同施設のイベントスペースである運河と噴水の空間「サンプラザ」に、プロジェクションマッピングと噴水や立体音響を中心としたショー演出空間が誕生し、2016年11月19日に一般公開をスタートした。今回は、圧倒的なスケール感のある映像コンテンツと連動する、この総合エンターテインメントを実現させた関係者の方々に訊いた。

〔取材協力:(株)エス・シー・アライアンス:大竹真由美、内田照久、甲斐哲治、(株)川本舞台照明:小川千穂、(株)P.I.C.S.:橋本大佑、諏澤大助、矢野絵理奈敬省略〕

 

▲ キャナルシティ博多で実施されている都市型フェスティバルショー「ワンピース ウォータースペクタクル」。

 

最初のプランの完成は2015年秋

ー大型映像を使ったショーが実現に至った経緯は?

 

 大竹 キャナルシティさんから最初にお話をいただいたのは、2014年の夏です。キャナルシティさんは、サンプラザで噴水演出をずっとやられていて、その噴水が古くなってきたので一新したいというご相談を受けたのが始まりです。キャナルシティさんが2016年4月に開業20周年を迎えるということで、このオープニング記念イベントとして、設備を全て一新して新しい噴水ショーを実施するというのが、最初のテーマでした。

 その後、噴水を替えるだけではなくて、何か他にプラスαの演出を考えられないだろうかということになり、ではプロジェクションマッピングを入れたらどうでしょうとなりました。最初のプランが出来上がったのが2015年の秋でした。

 

ー計画はスムーズに進行したのですか ?

 

 大竹 2016年4月スタートということでほぼ決まっていたのですが、2015年10月の着手のタイミングで、「この規模よりももっと大々的にやろう」という声が福岡地所さんから出まして、一度計画が見直されました。

 映像に関しては当初、現在のメインとなるスクリーンの下のあたりのみに投影する計画でした。それがもっと映像を多用した方が良いという方向で固まり、プロジェクターも30,000ルーメンの機種が4台の予定だったのですが、これが現状の30,000ルーメンを10台というところで落ち着いたのが2015年12月です。最初は「LEDビジョンを貼ったら良いのではないか」とか、「LEDを運河に架けたらどうか」など、いろいろな声があがっていましたね(笑)

 

ー計画を見直したことでスタートの時期が延期になったということですか?

 

 大竹 それも理由のひとつではあるのですが、お客さんの多いゴールデンウィークと夏の時期に、噴水ショーを工事で中止したくないという商業施設ならではの意向もありました。結果、新しいショーの開始時期をクリスマスシーズンとし、2016年11月の完成を目標に工事を進めることになりました。

 

 

 設備もソフトもテーマパークに負けないもの

ーキャナルシティ博多の要望はどのようなものだったのですか ?

 

 大竹 キャナルシティさんは、商業施設ではあるのですが、エンターテインメントにもかなり力を入れておられます。以前からサンプラザのステージでは、アーティストのライブや大道芸人によるパフォーマンスなど、日々イベントを実施されていました。

 今回、そこから一段上がって、「設備もソフトも、テーマパークに負けない体験価値の高いものを入れて欲しい」というご要望がありました。ですので、プロジェクターやスピーカー、照明機材にしても、ご要望通りのものを入れさせていただきました。

 

ー各機材の選定、設置時に苦労したことは?

 

 大竹 投影面とお客さんの位置が非常に近いんです。ですので、投影距離をあまり取れなく、一番近いところで10メートルくらいです。これには、短焦点レンズを使って対応しました。

 また、サンプラザには、毎年夏になると巨大な飾り山笠が展示されるので、この山笠も考慮しなくてはいけません。サンプラザの壁面に設置したプロジェクターは、山笠を避けるべく、映像をクロスするように投影しています。プロジェクターの配置にはかなり悩みました。

 噴水については、今までにない高さや動きが実現できるものを入れるということで、ノズルの選定に苦労しましたね。

 小川 キャナルシティさんの「エンターテインメント性の高い空間をつくりたい」という要望があったので、そこを意識して照明設計を行いました。

 私はこれまでに数多くの噴水照明を見てきましたが、高く上がる噴水というのはたくさんあるのですが、噴水の上の方までしっかり照明で染まっているものは、ほとんどありません。ですので今回は、上の方までしっかり色で染めるというところを第一に考え、キャナルシティさんに合わせた特注器具をつくってもらいました。私としてはブルーの色を綺麗に見せることと、色をMIXしたときに映像をいじめない微妙な色合いが出せる器具を使用したかったので、色の選定などを相談しながら製作していただいていて、器具の出来栄えには満足しています。

 噴水の下からだけでなく、併設されたホテルの上からも光を当てて、高さ28メートルの噴水を染めています。国内では、ここまでしっかりと色を出しているところは他にないと思います。

 内田 テーマパークに負けないものをということで、プロジェクションマッピングも通常より明るい設計になっています。

 輝度を上げるためには、プロジェクターを2台重ねるなどやり方は色々あるのですが、今回は1台でしっかり明るさを確保するために、クリスティ・デジタル・システムズ社製で30,000ルーメンの機材を使いました。美しい映像を実現できる4K対応の最新機種を設置させていただきました。

 甲斐 今回のプロジェクションマッピングは、ガラス面への投影が中心です。最終的にはロールスクリーンを設置し投影することで落ち着いたのですが、ロールスクリーンを取り付けることで排煙口に影響がないようにという法令上の制約があったり、作業時間は店舗が閉店する深夜1時から朝7時くらいまでだったりと、なかなか大変でした。

 使う布については、実際に映像を当ててみて何度も実験を繰り返しましたし、ロールスクリーンの形状についても、当初の予定より細くしたり、抜けてしまうところを足したりだとか、ギリギリまで試行錯誤していましたね。

 ちなみにロールスクリーンは、すべて自動で開閉するようになっています。

 大竹 今回のハードについては、キャナルシティ専用のシステムを構築しました。私たちはコアと呼んでいるのですが、一番大事なところは24時間365日動かしっぱなしです。1日24時間のタイムスケジュールを組んで、朝8時30分になったら店舗内の環境音楽が流れ始め、10時になったら開店のアナウンスが流れ、音楽噴水が始まります、16時になったらプロジェクターの電源を入れます、ショーが終わったらプロジェクターのランプを落とします、最後は閉店の音楽を流しますといったことを全て自動でやっているんです。

 音をメインに、全てのことを自動でやれるようにシステムを組んだのですが、これは拡張への伏線というか、当初やる予定ではなかったところも今後増やしていけるように考えてあります。キャナルシティ全体がエンターテインメント性の高い空間となるように、設計されています。

 

 

 

▲ 噴水は最大28mの高さまで上がる。

 

バトルシーンにこだわって迫力ある映像に仕上げた

ー映像コンテンツの内容・演出について

 

 橋本 初回の映像コンテンツには、人気アニメ「ONEPIECE」を採用しています。今回は「ONEPIECE」の中でも特にバトルシーンにこだわり、迫力ある映像に仕上げました。また、ルフィのパンチに噴水の動きを合わせるなど、映像と噴水をうまくリンクさせています。こういった演出は、これまであるようでなかったと思います。前例がないことを試行錯誤しながらやって、それは難しくもあったのですが、楽しかったですね。

 僕はこれまでにも、プロジェクションマッピングは何度かやったことがあるのですが、噴水と照明などを総合的に組み合わせてやったのは、今回が初めてでした。最初は、照明と映像が喧嘩してしまう部分があったり、噴水から出る光が映像を少しあまくしてしまうといった問題などもあったりしたのですが、そこは皆さんと話し合いながら、ここは映像を、ここは噴水を際立たせようというように調整しました。プロジェクションマッピングでバトルものを表現するのは難しかったですが、色々な可能性を感じることができました。

 諏澤 プロジェクションマッピングは、場所やプロジェクターの性能によって、色の映り具合が変わってきます。特に今回は、既存のアニメを使ったコンテンツですので、色味や表現方法にしても「ONEPIECE」の世界観を崩さないよう注意する必要がありました。

 現場で映像を、照明と噴水と合わせてみて、見え方が思っていたものと違うなと感じたり、もっとこうした方が良いなというところは多々ありましたが、そこはエス・シー・アライアンスさんや川本舞台照明さんとお話しして、より良く見えるよう詰めていきました。2〜3週間の調整期間を経て、ようやくオープンに至ったというところがあるので、すごく楽しい部分がありつつも、やはり難しくもあったかなと思います。

 内田 あの投影面の大きさだと、通常なら100メートル、最低でも50メートルくらいは離れた場所から投影するのが普通です。首を横に振らないと左右のコンテンツが見えないというのは、最初はどうなるのか想像がしづらかったですね。

 ただ、お客さんが映像を間近で見るということが、今回のマッピングの面白さなんだなと、実際にやってみて分かりました。すぐ目の前で映像が展開し、そこに噴水などの演出が加わることで、すごく迫力のあるショーになっています。

 

 

▲ ショーが実施される「サンプラザ」。客席から投影面までの距離は最も近い場所で10mほどだ。

 

ー映像の全てを観られるエリアはないのですか?

 

 矢野 投影面が全長65mの湾曲した壁面のため、我々が制作した映像の全貌が見える場所はないんです。それを考慮して、センターをメインに絵作りをしつつ、左右で観ている人も楽しませる工夫が必要でした。そういった意味では左右に映す部分の映像にはかなり苦戦しましたね。/p>

 橋本 センターでは物語が展開していくのですが、左右ではキャラクターのプレートや顔をしっかり見せるなど、側面ならではの楽しみのようなものを考え、コンテンツを制作しました。/p>

 諏澤 もともとキャナルシティさんからは、「一回見たら終わりではなく、何度でも見たくなるような新しい発見や、楽しさを感じてもらえるコンテンツにしたい」という意向を伺っていたので、そういった意味では、観る位置によって見え方が変わる今回のコンテンツは、ここにこんな小ネタがあったのかだとか、こっちに来たらこういうキャラクターが見られたんだというように、何度でも楽しめる内容になっていると思います。

 

ー特に注目してもらいたいポイントはどこですか?

 

 橋本 何より感じて欲しいのはやはり迫力です。YouTubeなどで見るのではなく、実際に現地に来て生で観ていただきたいです。噴水のバーンという音も、生で聞くとすごい迫力がありますし、動画と生では全く印象が違います。

 大竹 映像と同じ高さまで上がる噴水ってなかなかないですよ。お客さんからは「ここまで上がるんだ!!」とか「わぁー!!」というような驚きの声があがっています。やはり、28メートルの高さまで水が上がると、その迫力はすごいものがあります。

 また、音響については、普通にステレオで聴くよりもより臨場感だったり、没入感だったりというのが得られるように、地下1階のメインとなる場所だけですが、サラウンドスピーカーを置いて、いわゆる劇場風にしています。

 他の階に関しては通路から観るお客さんも多いので、普通はシーリングスピーカーなどを付けがちなのですが、そこはショーの音を届けられるよう設計して、音色も上にいったから、横にいったからといって悪くなることがないよう気を使って設計しています。音のバランスなども5日間かけて調整して、最もマッチするものを見つけました。

 甲斐 スピーカー1台1台もエコライザーやレベルなどを調整できるように設計しています。かなり細かい調整ができますよ。

 橋本 今回、すごく迫力あるものができましたが、やればやるほどもっとやりたい、もっとこうしたいという欲が出てきました。例えば、ここは噴水だけで成立させようとか、映像で見せよう、照明で見せようみたいに、メリハリをつけた演出にすることができれば、さらに見やすくなるかなと思っています。

 

 

▲ 「サンプラザ」を囲む壁に設置されたプロジェクターや照明。

 

最高の演出の実現に必要な機材や資材をあわせて提案

ーオープニング企画である今回のショーを完成させた今の心境は?

 

 大竹 私たちは、自分たちでどう演出できるか、どういう演出をしたいかということを、それを実現するために必要な機材や資材とあわせて提案しています。私たちで最高のものを実現するための機材を常設として入れさせていただいたので、今後も引き続きこれらを使って、より良いものを提供させていただきたいと思っています。

 小川 既存のハードがあって、これを使ってやってくださいというパターンは多いですが、ハードを構えつつ、ソフトもつくってあわせて納入するといったパターンは少ないと思います。

 大竹さんが話されたように、このソフトをつくるためにはどういったハードが必要なのかというところから、自分たちで設計できたことが大きいと思います。そして、このハードを入れたからには、今後はソフトをバージョンアップしていって、もっと使いこなしていこうと話しています。

 矢野 私は、今回が初めてのプロジェクションマッピングの現場で、更に映像だけではなく、噴水、照明、サラウンド音響を複合的に組み合わせたショーということですべてが手探りだったのですが、結果的にお客さんにも喜んでもらえるような迫力のあるショーが完成し、とても貴重な経験をさせていただきました。

 橋本 お客さんの目も肥えてくると思いますので、そこは飽きさせないように気をつけなきゃなと思っています。今回は巨大さや迫力をテーマにコンテンツを制作しましたが、次回は全く違うものを見せたいと思います。

 

ー今回の大規模なリニューアルを任された要因について、どう思われますか?

 

 大竹 総合的にまとまったプランをご提案できたことが、大きかったのではないかと思います。もともとサンプラザのB1が中心だったショー空間をB1から4F、更に運河全体をショー空間とする提案が採用され実現でき、その結果として多くの人に足を運んでもらえるようになりました。

 甲斐 あと弊社はこれまでも、噴水、映像、レーザー、音響などを組み合わせた演出をやってきていたので、そういった実績も認めていただけたのかなと思います。

 

◀︎ オペレーション風景

ーオープンから2ヵ月ほどが経過しましたが、反響は?

 

 大竹 反響も良いようで、クリスマスの2日間は延べ20万人以上の方が来られたそうです。前年と比べて、夕方以降の滞留者数は約1.3倍まで増えたと伺っています。

 もともとファミリーが多い場所なので、普段も昼間は多くの方がいらっしゃるのですが、夕方からの引きは早かったんです。夜観られるショーを始めることで、お客さんに夜まで残ってもらうことがテーマとしてあったのですが、これがぴったりはまって、狙い通りの集客が得られています。レストランの売上げも伸びているようです。

 

■ 運営管理

福岡地所(株)

■ 総合プロデュース

(株)エス・シー・アライアンス (株)キャナルエンターテイメントワークス

■ 投影・音響システム設計

(株)エス・シー・アライアンス

■ 噴水設計

(株)光栄

■ 照明設計

(株)川本舞台照明

■ 建築・インフラ設備

(株)錢高組

■ 映像制作/プロデュース

(株)P.I.C.S.

■ CGアニメーション制作

東映アニメーション(株) (株)P.I.C.S. (株)ギフト

■ 総合演出

橋本大佑( P.I.C.S.management )

■ 投影プロジェクター

Boxer 4K30(30,000lm、クリスティ・デジタル・シス テムズ社製)×10 台
■ マルチスクリーン管理システム
E2(バルコ社製)

■ 音響システム

「 Leopared 」など Meyer 社製スピーカー

■ ショーコントロールシステム

マスターコントローラー「 NX-2200 (」 AMX 社製)

■ 水中照明

特注 LED 水中照明(ブレス社製)

 

© 尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

問い合わせ

(株)エス・シー・アライアンス メディアエンターテイメント社
Tel.03-3202-2341
http://www.sc-a.jp

 

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